キャリアアドバイザーの秋吉しおりです。
「転職したほうがいいでしょうか」というご相談を、面談でとてもよくいただきます。
そう聞かれたとき、私はすぐには答えません。転職すべきかどうかは、その方が何に困っていて、いま何が見えていないかによって変わるからです。
まずは、転職を考え始めた段階でやっておきたい3つの準備を、一緒に整理していきましょう。
その気持ちは、どこから来ているでしょうか
準備の話に入る前に、少しだけ立ち止まってみてください。
きっかけを思い出してみる
転職を考え始めた最初のきっかけは、何だったでしょうか。
特定の出来事だったという方もいれば、いつの間にかそう思っていた、という方もいます。どちらでも構いません。ただ、ここを言葉にしておくと、後の判断が楽になります。
面談でよくお聞きするのは、こういったきっかけです。
- 上司や同僚との関係がつらくなった
- 仕事の内容に手応えを感じなくなった
- 給与や労働時間の条件が合わなくなった
- この会社にいて数年後どうなるかが見えなくなった
「転職しない」も選択肢に残しておく
ここは最初にお伝えしておきたいところです。
転職を考えることと、転職することは違います。準備を始めても、結果として今の会社に残るという結論になる方は珍しくありません。
それは失敗ではなく、比べたうえで選んだということです。この記事の3つの準備は、どちらを選ぶ場合にも役に立つ内容にしています。
不満の正体がまだ言葉になっていないという方は、転職理由が「なんとなく不満」のときの整理法から読んでいただいたほうが、進めやすいかもしれません。
自己分析より先に、現状把握から
転職の準備というと、自己分析から始める方が多いように思います。
自己分析から入ると、行き詰まりやすい
「自分の強みは何か」「本当にやりたいことは何か」。この問いは大切ですが、いきなり向き合うと答えが出ません。
材料がない状態で考えているためです。世の中にどんな仕事があって、自分の経験がどこで通用するのかを知らないまま掘り下げても、堂々巡りになりやすいのです。
順番を入れ替えてみる
そこで、進める順序を変えることをおすすめしています。
外を見る(情報収集)→ 自分を見る(自己整理)→ 足元を固める(資金)という流れです。外の情報が入ってくると、自分の経験の見え方も変わってきます。
以下、この順番で3つの準備を見ていきます。
準備1:情報収集は「相場を知る」から
最初にやるのは、応募でも登録でもなく、いまの外の状況を知ることです。
市場全体の温度を1回だけ確認する
求人が多い時期なのか少ない時期なのかは、判断の背景として知っておくと落ち着きます。
ひとつ前置きをしておくと、この統計が対象にしているのはハローワークで扱われた求人と求職です。転職サイトやエージェントの求人は含まれないため、全体のうちの一部を映した数字だとご理解ください。
厚生労働省が毎月公表している有効求人倍率を見ると、2026年5月時点で1.17倍です(季節調整値)。求職者1人あたりに1.17件の求人がある、という意味になります。
ただし、ここで注意していただきたいことがあります。同じ月で、正社員に限った有効求人倍率は0.99倍です。「求人はたくさんある」という全体の印象と、正社員として探している方の実感がずれるのは、このためかもしれません(季節による変動の処理が異なるため、2つの数字を厳密に比べることはできません)。
数字は毎月変わりますので、いまの状況は厚生労働省の一般職業紹介状況(職業安定業務統計)で確認してみてください。
業種によって状況が違う
全体の数字より、あなたが関わる業種の動きのほうが実感に近いかもしれません。
2026年5月の新規求人(前年同月比)を見ると、全体で8.9%減っています。減り方が大きいのは生活関連サービス業・娯楽業、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業、建設業などです。
「いまは売り手市場だから」といった数年前の話が、そのまま当てはまらない時期に入っています。ご自身の業界について、いまどうなっているかを確かめておくと安心かもしれません。
どこで求人を探すか
情報収集の入り口は、大きく3つあります。
- 転職サイト……掲載されている求人を自分で検索する。ペースを自分で決められます
- 転職エージェント……相談したうえで紹介を受ける。非公開の求人も見られます
- 直接応募……行きたい企業が決まっている場合は、これが最短です
それぞれ仕組みが違い、費用の出どころも違います。どれが自分に合うかは、その仕組みを知ってから決めるほうが納得できます。違いは転職エージェントとサイトの違いと使い分けで整理しました。
職種ごとの中身を見る
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)では、職種ごとの仕事内容・必要なスキル・賃金の水準・求人倍率を無料で調べられます。
気になっている職種を2〜3個入れてみると、想像と実態のずれが見えてきます。この段階では、応募する前提でなくて構いません。
準備2:自己整理は「棚卸し」から
外の情報を入れたら、次は自分の側を見ていきます。
強みを探す前に、事実を並べる
ここでも、いきなり「強み」を考えないほうが進みます。
まずは、これまで何をやってきたかという事実を、日付と一緒に並べてみてください。担当した業務、関わった人数、扱った金額や件数。評価は後回しで構いません。
「書くことがない」と感じる方が多いのですが、それは経験がないのではなく、粒度が粗いだけであることがほとんどです。掘り下げ方は職務経歴書に書くことがないと感じたときの棚卸し法にまとめています。
2つの軸で条件を書き出す
あわせて、次に働く場所に何を求めるのかを整理します。おすすめしているのは、2つに分ける書き方です。
- 譲れない条件……これが満たされないなら転職する意味がない、というもの
- できれば欲しい条件……あれば嬉しいが、なくても続けられるもの
すべてを満たす会社はまず見つかりません。だからこそ、どこを譲るかを決めておかれると、迷ったときに戻ってこられます。
あなたの場合、譲れない条件はいくつになるでしょうか。3つを超えるようなら、もう一度見直してみてもいいかもしれません。
いまの会社で解決できないかも、並べて考える
これは面談でも必ずお聞きしています。
不満の相手が特定の上司なのであれば、異動や配置転換で解決する可能性が残っています。一方、事業そのものの先行きや評価制度の設計に関わることなら、社内では動かせないかもしれません。
どちらなのかを見分けてから動くと、遠回りが減ります。
準備3:資金は「動き方」で必要額が変わる
3つ目は、意外と後回しにされがちな部分です。
在職中に動くなら、まとまった資金は要りません
働きながら転職活動をする場合、収入は途切れません。
かかるのは面接時の交通費や、必要に応じたスーツ代くらいです。ここで大きな資金を用意する必要はありません。
ただし時間の確保が難しくなるので、進め方は在職中の転職活動を無理なく進めるスケジュールの組み方を参考にしてみてください。
辞めてから動くなら、生活費の何か月分かを決めておく
先に退職する場合は、収入のない期間が発生します。
転職活動にかかる期間には幅がありますが、応募先を探し、選考を受け、内定を得て、入社日を調整するまでを考えると、数か月単位で見ておくのが現実的です。
目安として、生活費の3か月分から6か月分を手元に置いてから動く方が多いです。ここが薄いと、条件を吟味する前に決めざるを得なくなります。
金額は家賃や家族構成で変わりますので、月にいくら出ていくかを一度計算してみてください。
失業給付をあてにする場合の注意
自己都合で退職した場合、雇用保険の基本手当はすぐには受け取れず、待期期間や給付制限を経てからの支給になります。
金額も期間も、退職の理由や加入していた期間によって変わります。詳しい要件はご自身の状況で異なりますので、ハローワークインターネットサービスで確認するか、お住まいの地域のハローワークに問い合わせてみてください。
いずれにしても、給付が始まるまでの期間を自分の資金でしのぐ必要があるという点は押さえておいたほうが安心です。
動き出すタイミングをどう決めるか
準備ができたとして、いつ動き始めるか。ここも悩ましいところだと思います。
「準備が完璧になってから」は来ない
自己整理が終わってから、資格を取ってから、繁忙期が終わってから。そう考えているうちに1年が過ぎてしまった、という話もよく伺います。
3つの準備のうち、情報収集は今日からでも始められます。求人を眺めるだけなら、誰にも知られませんし、何かを約束することにもなりません。
それでも、急がなくていい場面もあります
一方で、いま動かないほうがいい時期もあります。
- 心身の調子を大きく崩している……回復を優先したほうが、判断の精度が上がります
- 直近で大きな出来事があった……感情が動いている時期の決断は、後から見え方が変わることがあります
- 今の職場で担当している業務が、あと少しで区切りを迎える……職務経歴として書ける形になります
一度立ち止まって、いまがどの状態に近いかを考えてみてください。
期限だけは決めておく
ただ、期限のない保留は保留のまま続きます。
「3か月後にもう一度考える」「この案件が終わったら求人を見る」というように、次に判断する日をカレンダーに置いておくと、宙ぶらりんの状態が続きにくくなります。
まとめ:外を見て、自分を見て、足元を固める
転職を考え始めたときの3つの準備を見てきました。
情報収集で相場を知り、自己整理で経験と条件を言葉にし、資金で動ける状態を作る。この順番で進めると、判断の材料がそろっていきます。
そして、準備の結果として「今の会社に残る」という答えが出ることもあります。それも、比べたうえで選んだ結論です。
今日できることを挙げるなら、次のどれかになるでしょうか。
- 転職を考え始めたきっかけを、1行書き出してみる
- job tagで、気になっている職種を1つ調べてみる
- 毎月の生活費がいくらかを計算してみる
どれから始めても構いません。あなたの場合、いちばん引っかかっているのはどこでしょうか。
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- 転職して年収が下がっても後悔しないケースとは
本記事は転職の準備に関する一般的な情報提供を目的としたもので、転職の成否や収入を保証するものではありません。雇用保険の基本手当をはじめとする給付の要件・金額・支給時期は、退職の理由や被保険者であった期間によって異なり、制度も改正される場合があります。実際のご判断は、ハローワークなど公的機関の最新情報をご確認のうえ、ご自身の状況に即してお進めください。










