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転職の年収交渉はどこまでしていいのか

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キャリアアドバイザーの秋吉しおりです。

内定が出た後で「この金額、交渉してもいいのでしょうか」とご相談をいただくことがあります。

言い出したら印象が悪くなるのではないか。そう心配される方が多いのですが、時期と伝え方さえ間違えなければ、交渉自体は通常の手続きの一部です。

いつ、どう切り出すか。そして、避けたほうがいい進め方はどれか。

順に整理していきます。

交渉できるのは、基本的に1回だけです

まず、タイミングの話から始めます。ここを外すと、内容が良くても通りません。

適期は「内定提示後・承諾前」

金額について相談できるのは、条件が提示されてから、承諾の返事をするまでの間です。ここが唯一の機会だと考えてください。

理由は単純で、この時点では企業側が「あなたに来てほしい」と決めた後だからです。選考中はまだ比較の途中なので、条件の話を持ち出すと優先順位が下がることがあります。

承諾した後は動きません

一度「その条件で」と返事をすると、後から変更を求めるのは難しくなります。

社内で稟議を通し、席を用意して動き始めているためです。迷いがあるなら、返事を保留にしたうえで相談してください。

「◯日まで検討させてください」と伝えるのは失礼にあたりません。

選考の途中で聞かれたら

面接で「希望年収は」と質問されることがあります。これは交渉の場面ではなく、条件が大きくずれていないかの確認です。

ここでは幅で答えるのが無難です。「現在◯◯万円で、経験を踏まえてご提示いただければと考えています」といった形にしておくと、後の相談の余地が残ります。

提示額を受け取ったら、まず確認すること

交渉に入る前に、提示された内容を正確に把握しておく必要があります。

金額だけを見て判断すると、後から食い違うことがあるからです。

確認しておきたいのは、次の5点です。

  • 提示額に何が含まれているか……賞与を含む年収か、月給ベースか
  • 固定残業代の有無と時間数……含まれている場合、その時間を超えた分の扱い
  • 賞与の支給実績……規定上の月数と、直近の実績は違うことがあります
  • 各種手当の条件……住宅手当や通勤手当に支給要件があるか
  • 試用期間中の待遇……本採用後と差があるか

とくに2つ目は、実際の時給に大きく関わる部分です。

同じ提示額でも、固定残業代が含まれているかどうかで働き方が変わります。

この5点を確認したうえで、それでも希望と開きがある場合に交渉へ進む、という順番になります。

何を根拠にするか

次に、交渉の中身です。ここで多くの方が迷われます。

「現年収より上げたい」は根拠になりません

いまいくらもらっているかは、前の会社の事情です。応募先にとっては、金額を決める理由になりません。

生活の事情も同じです。家賃が上がった、家族が増えた。

事実として大切なことですが、企業側が支払う根拠にはなりにくいように思います。

根拠は2つあります

使えるのは、次の2つです。

  • 担う役割……面接を通じて明らかになった業務範囲や責任が、当初の想定より広い場合
  • 市場の水準……同じ職種・同じ経験年数で、一般的にどのくらいの水準か

1つ目は、面接で話が具体化したときに出てきます。「マネジメントも」「この領域も見てほしい」と言われたなら、それは根拠になります。

市場の水準を調べる

2つ目については、公的なデータで確認できます。

厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)では、職業ごとの平均的な賃金の水準を見られます。求人サイトの掲載額の幅も参考になります。

「調べたところ、この職種の水準は◯◯万円前後のようでした」と言えると、話が感情ではなく事実の比較になります。

希望額は具体的に、ただし幅で

「もう少し上げてほしい」では、相手も動きようがありません。

「◯◯万円ほどをご検討いただけないでしょうか」と数字を出すか、幅で示してください。提示額から2〜3割上を求めるのは、現実的には難しい場面が多いように思います。

伝えるときの姿勢

交渉と聞くと、身構えてしまう方が多いかもしれません。

ただ、実際にやり取りをしていて感じるのは、これは押し合いではなく、条件をすり合わせる場だということです。

相手の企業も、入社後にすぐ辞めてしまうことは望んでいません。

ですから、納得しないまま受けるより、この段階で率直に伝えるほうがお互いのためになります。

大切なのは、要求として突きつけるのではなく、相談として伝えることだと考えています。

「難しいようであれば、その旨も含めてご検討いただけますでしょうか」と添えておくと、相手も答えやすくなります。

切り出し方

言い方で印象が大きく変わる部分なので、文例を置いておきます。

基本の形

「内定のご連絡をありがとうございます。ぜひ前向きに考えたいと思っております。

一点だけご相談させてください。面接で伺った業務範囲が、当初の求人内容より広いように感じております。

この点を踏まえ、年収について◯◯万円ほどでご検討いただくことは可能でしょうか。

難しい場合でも、いただいた条件で検討させていただきます。」

3つの要素が入っています

  • まず感謝と前向きな姿勢……交渉が目的ではなく、入社したいという前提を示します
  • 根拠を一言……業務範囲、または市場水準
  • 断られた場合の姿勢……これがあると、相手が答えやすくなります

最後の一文があるかどうかで、受け取られ方がかなり変わります。条件闘争ではないと伝わるためです。

エージェント経由の場合

間に転職エージェントが入っている場合は、担当者に伝えて代わりに交渉してもらう形になります。

自分で直接言わずに済むぶん気は楽ですが、エージェントは成功報酬で動いているため、決まることを優先する場面もあります。その仕組みは転職エージェントとサイトの違いと使い分けで説明しています。

「この金額なら承諾します」という線を、自分の中で決めてから伝えるようにしてください。

避けたほうがいい進め方

逆に、印象を損ないやすい形も挙げておきます。

他社の内定を持ち出して迫る

「他社からは◯◯万円と言われています」という伝え方は、扱いが難しい部分です。

事実であれば伝えること自体は問題ありませんが、比較を前面に出すと「条件次第で動く人」という印象になることがあります。伝えるなら、あくまで検討状況の共有という形にとどめるのが無難です。

何度も交渉する

回答をもらった後にもう一度、さらにもう一度と重ねるのは避けてください。

企業側は社内で調整して回答を出しています。交渉は1回、というのはそういう意味です。

金額以外の条件を後出しする

年収の話が終わってから、勤務地や在宅勤務の希望を追加で出すと、話がまとまりません。

相談したいことがあるなら、最初にまとめて伝えてください。

感情的な理由を並べる

「この金額では納得できません」といった伝え方は、交渉ではなく不満の表明になってしまいます。

言いたくなる場面もあると思いますが、根拠に置き換えて伝えるほうが結果につながります。

年収以外にも、相談できる項目があります

金額そのものが動かない場合でも、条件面で相談できることは残っています。

実際に調整されることがあるのは、次のような項目です。

  • 入社日……現職の引き継ぎに合わせて調整できることが多い部分です
  • 初回の昇給・評価のタイミング……いつ、何を基準に見直されるか
  • 役職や等級……金額ではなく格付けの話として相談できる場合があります
  • 勤務地や勤務形態……在宅の可否、出社の頻度
  • 試用期間中の待遇……本採用時と条件が違う場合があります

とくに2つ目は、金額が届かなかったときの現実的な着地点になります。

「今回の提示は理解しました。そのうえで、次の評価の時期と基準を教えていただけますか」という聞き方であれば、角も立ちません。

ここで返ってきた答えは、入社後の見通しを立てる材料にもなります。

交渉が難しい場面もあります

最後に、そもそも動きにくいケースについて触れておきます。

給与テーブルが決まっている場合

等級や号俸で金額が決まっている企業では、個別の調整ができないことがあります。

この場合は金額そのものではなく、入社時の等級を1つ上げられないかという相談の仕方があります。

未経験での採用の場合

職種を変える転職では、いったん年収が下がることも珍しくありません。

ここで無理に交渉するより、入社後の昇給の仕組みを確認しておくほうが実質的なことが多いです。「どのくらいの期間で、どういう条件で見直されますか」と聞いてみてください。

年収が下がる転職をどう判断するかは、転職して年収が下がっても後悔しないケースとはで扱っています。

結果は保証できません

ここは正直に書いておきます。交渉すれば上がる、というものではありません。

むしろ一度立ち止まって、上がらなかった場合にその条件で入社するかどうかを先に決めておいてください。

提示額が変わらないことのほうが多いくらいです。それでも、聞いてみたという事実は残ります。

確認しないまま入社して後から気づくより、納得して決められます。

希望が通らなかったとき、どう判断するか

交渉した結果、提示額が変わらないこともあります。

そのとき考えたいのは、その金額で受けるかどうかの前に、なぜ変わらなかったのかという点です。

給与テーブルが決まっている場合と、評価が届かなかった場合では、意味が違います。

前者であれば、あなたへの評価が低いということではありません。

後者の場合、入社後に任される範囲も、その評価に沿ったものになる可能性があります。

理由を確認したうえで、それでも受けたいと思えるかどうかを見てみてください。

金額だけで判断すると、後から気持ちが揺れやすくなります。

断る判断をした場合も、伝え方は丁寧にしておいてください。

同じ業界で再び関わる可能性は、思っているより高いものです。

交渉したこと自体が不利になるのか

交渉すると印象が悪くなるのではないか、と心配される方がいます。

根拠を示したうえで一度相談する分には、そのことで内定が取り消されるようなことは、私の見てきた範囲では起きていません。

問題になりやすいのは、回数と伝え方のほうです。

何度も繰り返す、他社を引き合いに迫る、承諾後に持ち出す。この3つは避けてください。

そもそも交渉が必要ない場合もあります

提示額が希望に届いている場合、無理に交渉する必要はありません。

「せっかくだから上げてもらおう」という動機だけで持ちかけると、根拠が弱くなります。

交渉は手段であって、目的ではありません。

提示された条件で納得できるのであれば、そのまま受けるのが自然な判断だと思います。

その場合でも、評価の時期と基準だけは確認しておいてください。

入社後の見通しが立ちますし、聞いておいて損になることはありません。

交渉の前に、優先順位を決めておく

金額、入社日、勤務形態。相談したいことが複数ある場合、すべてを同時に出すと通りにくくなります。

先に、自分にとっての優先順位をつけておいてください。

いちばん譲れないものを1つ決めて、そこから相談する形が現実的です。

全部を通そうとすると、いちばん大事な項目まで曖昧な返事になってしまうことがあります。

2つ目以降は、相手の反応を見てから判断しても間に合います。

交渉の結果がどうであれ、確認した内容は書面で残しておいてください。

口頭のやり取りだけだと、入社後に食い違うことがあります。

まとめ:1回きりの機会を、根拠を持って使う

要点を3つに絞ります。

交渉できるのは内定提示後・承諾前の1回だけ。根拠は現年収ではなく、担う役割と市場の水準に置く。

そして、断られた場合の姿勢まで添えて伝える。

交渉は、入社したいという前提の上で行うものです。この前提が伝わる形にしておけば、切り出したこと自体が問題になる場面は多くありません。

いま内定を受け取っている方は、まず提示された条件を書面で確認するところからでしょうか。そのうえで、面接で聞いた業務範囲と照らして、ずれがあるかどうかを見てみてください。

ずれがなく、水準にも納得できるのであれば、どうでしょうか。交渉しないという判断も、同じくらい妥当だと思います。