若手Webマーケター/SNSグロースプランナーの早瀬優人です。
AIで作ったものをそのまま納品してよいのかどうかで、手が止まっている人は多いと思います。
僕自身も下書きをAIに任せた案件で、数字の出典を確かめないまま提出しかけて、公開直前に自分で気づいて青くなったことがありました。実際のところ答えははっきりしていて、そのまま渡すのはやめたほうがいいです。
理由は品質の問題だけではないので、この記事では品質・権利・守秘義務という3つの観点から順に整理していきます。
理由1:事実の誤りに気づけない
まずは、いちばん分かりやすい問題から見ていきます。
もっともらしい誤りが混ざる
AIは、事実と異なる内容をごく自然な文章のかたちで出力することがあります。
厄介なのは、それが「間違っていそうな書き方」では出てこないことで、断定的で読みやすく、一見すると正しそうに見えてしまいます。
読みやすさと正しさは別です。文章として整っていることは、内容が正しいことの証明になりません。
誤りやすいのは具体的な情報
特に注意したいのは、次のように具体的で、読み手が確かめにくい種類の情報です。
- 統計や数値(○%、○万人など)
- 制度や法律の内容、施行日
- 企業名・商品名・人名
- 出典として挙げられたURLや書名
ここでつまずく人が多いのですが、存在しない出典がもっともらしく示されることもあり、リンク先を開いて確かめるまでは実在するかどうか分かりません。
責任を負うのは納品した側
納品物に誤りがあった場合、依頼主が問い合わせるのはAIではなく納品した人です。
「AIが出力したものなので」という説明は通らず、自分の名前を出して納めた以上、責任はこちらにあります。
そのまま納品してしまいやすい場面
意図して手を抜いているわけではなく、状況によって起きてしまうことがあります。
相談を受けることが多いのは、次の3つの場面です。
ひとつは、納期が迫っているとき。確認の工程がいちばん削られやすい部分だからです。
ふたつめは、出力の完成度が高く見えたとき。文章として自然だと、内容まで正しいように感じてしまいます。
3つめは、自分の専門から少し外れた分野を扱ったときですね。
どこを疑えばいいか分からないため、確認したつもりで通してしまいます。
この3つのうち、自分がどれに当てはまりやすいかを知っておくだけでも、手前で止まれるようになります。
納期が原因なら、受ける段階でスケジュールを調整する。専門外が原因なら、その分野は受けないか、確認の時間を多めに見積もる。
対処はいずれも、納品の直前ではなく受注の時点にあります。
理由2:権利や規約の問題が起きうる
品質の話以上に見落とされやすいのが、ここから先の権利と規約の部分です。
既存の作品と似てしまう可能性
生成された文章や画像が、結果として既存の作品に似てしまう場合があります。
問題になるのは、生成物が既存の作品と似ていて(類似性)、かつその作品をもとに作られたと判断される場合(依拠性)で、特定の作品名を指示に入れて生成するやり方はこの2つの条件に近づいていきます。判断の枠組みは文化庁のAIと著作権についてで公開されています。
詳しくはAI画像生成を副業にする方法と、著作権で気をつけることで整理しています。
ツールの利用規約に反する場合がある
使っているAIツールが商用利用を認めていない場合には、納品したこと自体が規約違反になってしまいます。
無料プランのあいだは商用利用が制限されているサービスもあるので、料金プランごとの条件まで見ておく必要があります。順番として、受注する前に自分が使うツールの規約を確認してください。
クライアント側にリスクが移る
ここが最も重要な点です。
納品物に権利上の問題があった場合、実際に指摘を受けるのは、それを公開したクライアントのほうになります。
自分だけの問題では済まずに依頼主へ迷惑がかかるので、継続的な取引を考えるなら、ここは絶対に避けたいところです。
確認の工程を仕組みにしておく
毎回その場で考えていると、忙しいときに抜けます。
確認の項目を一覧にして、納品前に必ず開く形にしておくのが確実です。
僕が使っているのは、次の6項目です。
- 数字と固有名詞を、元の資料と突き合わせたか
- 制度や法令に触れている箇所は、公的な情報で確認したか
- 引用している部分は、出所を書いたか
- 使用したツールの規約に反していないか
- 預かった資料を入力していないか
- 通しで一度読んだか
一覧にしておく利点は、抜けを防ぐことより、確認を終えた実感が残ることにあります。
「たぶん大丈夫」で納品すると、後から不安が残ります。
その不安は、次の案件で確認を過剰にする方向へも働きます。
理由3:機密情報の扱いに関わる
3つ目は出力ではなく、AIに何を入力しているかという側の問題です。
預かった資料をそのまま入力していないか
クライアントから受け取った資料や社外秘の情報をAIに入力すると、そのまま外部のサーバーにデータを送ることになります。
契約でデータの取り扱いが定められている場合には、これに違反してしまう可能性があります。
着手する前に契約書の該当条項を確認し、記載がなければ依頼主に直接聞いておくのが安全です。
サービス側の設定も確認する
AIサービスによっては、入力した内容を学習に使うかどうかを利用者側の設定で変更できる場合があります。
業務で使うなら、作業に入る前にこの設定を開いて確認しておいてください。
確認にどれくらい時間をかけるか
確認が大事だと分かっていても、どこまでやるかの目安がないと判断できません。
僕が使っている目安は、制作にかかった時間の3割程度です。
2時間で作ったものなら、確認に30〜40分を見ておく形になります。
この時間が取れない納期なら、そもそも受けるべきか考え直したほうがいいです。
時間の配分は、次のように分けると漏れが減ります。
- 事実の確認に半分……数字、固有名詞、制度の内容
- 権利と規約の確認に2割……引用の範囲、ツールの利用条件
- 通し読みに3割……論理の飛躍、重複、トーンのぶれ
確認の時間を見積もりに含めずに単価を決めると、確認を削る方向に力が働きます。
そこを削ると、この記事で挙げたリスクがそのまま残ることになります。
事実確認で、どこまで遡るか
事実を確認する、と言っても、どこまで遡ればよいのか迷います。
目安として、情報の出所が公的機関か、その分野の当事者にあたるかどうかで判断してください。
制度や法令なら、所管する省庁のページまで遡ります。
企業のサービス内容なら、その企業の公式ページまで遡ります。
まとめ記事やAIの出力を出所にしたまま納品すると、その情報が正しいかどうかを誰も確認していない状態になります。
遡れなかった情報は、思い切って落とすのも判断です。
数字を1つ落としても記事は成立しますが、間違った数字が載ると記事全体の信頼が下がります。
どうしても必要な数字が確認できない場合は、その旨をクライアントに伝えて判断を仰いでください。
自分で埋めてしまうのがいちばん避けたい対応になります。
納品前のチェック手順
ここまでの3つを踏まえて、納品の前に実際にやることを手順の形に並べておきます。
ステップ1:事実を確認する
- 数値・統計は出典にあたって確かめたか
- 制度や法律の記述は、所管する官公庁のページで確認したか
- 固有名詞の表記は正しいか
- 示された出典は実在するか(リンクを開いて確認)
ステップ2:権利と規約を確認する
- 使ったツールは商用利用を認めているか
- 特定の作品や作風に寄せた指示をしていないか
- 案件でAI利用のルールが定められていないか
AIの使用が一律に禁止されているわけではありませんが、案件ごとにルールが定められている場合があるので、募集要項に記載がなければ着手する前に確認してください。
ステップ3:内容を自分の言葉で確かめる
- 依頼の意図に沿っているか
- クライアントの読者に向けた内容になっているか
- 自分が説明を求められたとき、答えられるか
この3つのうち、最後の項目がいちばん大切になります。自分で説明できない文章は、納品してはいけません。
ステップ4:通しで読む
部分ごとに確認していると、全体の流れが崩れていることには気づけません。
最後に頭から読み通してみると、この工程で不自然なつながりや内容の重複が見つかります。
誤りが見つかったときの対応
確認を通したつもりでも、納品後に誤りが見つかることはあります。
そのときの動き方で、その後の関係が決まります。
やることは3つです。
ひとつ目は、指摘を受けたらまず事実確認をして、誤りであることを認めること。ここで言い訳を挟むと話が長くなります。
ふたつ目は、影響範囲を伝えることです。同じ誤りが他の箇所にもないか、自分で確認して報告します。
3つ目は、なぜ通ってしまったかを説明し、確認手順をどう変えるかを伝えること。
3つ目まで返せる人は、一度の誤りで切られることがほとんどありません。
逆に、修正だけして原因に触れないと、また起きるのではないかという不安が残ります。
AIを使うこと自体は問題ではない
誤解のないように、ここまでの話の前提を書いておきます。
AIを使うこと自体が悪いわけではなく、問題なのは確認の工程を挟まずに渡してしまうことです。
下書きをAIで作ってから事実を確認し、文脈に合わせて直したうえで自分の責任で納める。この流れで進める限り、AIは十分に役立ちます。
お金が発生しているのは、この確認と判断の部分です。この点はChatGPT副業は本当に稼げるか、お金になる使い方と限界でも詳しく書いています。
AIを使ったことを伝えるかどうか
最後に、よく聞かれる点に触れておきます。
AI利用を申告すべきかどうかは、案件の条件によって変わります。
募集要項に可否が書かれているなら、それに従えば済む話です。
書かれていない場合、僕は着手前に確認するようにしています。
理由は2つあって、ひとつはクライアント側にも社内ルールがあるためです。
もうひとつは、後から発覚したときの影響が大きいからですね。
「聞かれなかったから言わなかった」は、信頼の問題としては通りにくい説明です。
確認したうえで使ってよいとなれば、堂々と使えます。
使ってはいけないとなれば、工程を変えるか、条件が合わないとして断る判断ができます。
どちらにしても、着手前に分かっているほうが軌道修正の幅が広く残ります。
確認の工程は、単価に含めて考える
ここまで確認の重要性を書いてきましたが、現実には時間が取れないこともあります。
その多くは、確認の時間を見積もりに入れていないことが原因です。
単価を決めるとき、制作の時間だけで計算していないか確認してみてください。
確認は納品物の一部であって、おまけの作業ではありません。
見積もりに含めておけば、削る対象になりません。
もし含めた結果、相手の予算と合わないなら、それは条件が合わない案件だったということです。
確認を削って受けるより、範囲を狭めて受けるほうが結果的に続きます。
たとえば、事実確認が重い分野なら「一次情報の確認は依頼側で行う」という前提で受ける形もあります。
どちらが担うかを決めずに進めるのが、いちばん危ない状態です。
確認したことを、相手に伝える
確認は自分の中で完結させず、簡単でよいので相手に伝えておくと効きます。
「数字は◯◯の公表資料で確認しました」と一行添えるだけで構いません。
確認済みであることが分かれば、相手側の点検の負担も減ります。
まとめ:確認の工程が、仕事の価値そのもの
AI生成コンテンツをそのまま納品してはいけない理由を整理してきました。
理由は3つあり、事実の誤りに気づけないこと、権利や規約の問題がクライアント側にまで及ぶこと、そして機密情報の扱いに関わることでした。
確認の工程を省くことは、時間の短縮ではなく、仕事の価値そのものを削ることです。
短縮できた時間の一部は確認に戻すものだと考えておくと、無理なく長く続けられます。
最初にやるのは、上のチェック手順を自分の作業フローの最後に組み込むことだけで構いません。
