キャリアアドバイザーの秋吉しおりです。
面談で「転職理由は何ですか」とお聞きすると、しばらく黙ってしまう方がいます。
不満があるのは間違いない。でも、言葉にしようとすると出てこない。
そういう状態は、決して珍しくありません。むしろ、はっきり言える方のほうが少ないくらいです。
その「なんとなく」を分解していく手順を、これからお渡しします。
言葉にならないのは、いくつかが混ざっているから
まず、なぜ出てこないのかを考えてみます。
不満は単体では存在しにくい
面談でお話を伺っていくと、たいてい複数のことが同時に起きています。
上司との関係がつらく、そのせいで仕事が面白くなくなり、給与も上がる気配がない。この3つが絡み合ったまま「もう無理かもしれない」という一つの感覚になっています。
絡まったままでは、転職して解決するのかどうかが判断できません。ほどいて、一つずつ見ていく必要があります。
言葉にできないまま動くと、同じ場所に戻る
ここは正直にお伝えしておきたいところです。
不満の中身が分からないまま転職すると、新しい職場でも同じところに引っかかることがあります。環境が変わっても、引っかかっていた構造が同じだったという場合です。
だからこそ、動く前に分解しておく意味があります。
書き出すときのコツ
枠を用意しても、いざ書こうとすると手が止まることがあります。
そういうときは、良し悪しを判断せずに、思い浮かんだ順に並べてみてください。
「こんなことで不満に思うのはおかしいのでは」と考え始めると、書けなくなってしまいます。
整理は書き終わってからで間に合います。
もうひとつ、直近の出来事だけで埋まってしまう場合は、1年前を思い出してみてください。
そのころから続いているものと、最近だけのものが分かれてきます。
長く続いているほうが、環境に根ざした不満である可能性が高いと考えられます。
4つに分けてみる
ここからが本題です。紙を1枚用意して、4つの枠を作ってみてください。
枠1:人
一緒に働く相手に関することです。
- 上司の指示の出し方、評価の仕方
- 同僚やチームとの相性
- お客様や取引先との関係
ここに書くときは、「誰の」「どんな言動が」つらいのかまで具体的に書いてみてください。「職場の雰囲気が悪い」では、後の判断に使えません。
枠2:仕事内容
やっている業務そのものについてです。
- 作業が単調で、身についているものがないと感じる
- 裁量がなく、決められたことをこなすだけになっている
- 逆に、責任だけが重く、支援がない
- やりたい仕事と、任される仕事がずれている
枠3:条件
数字で表せる部分です。
- 給与、賞与、昇給の実態
- 労働時間、残業、休日の取りやすさ
- 通勤時間、勤務地、在宅勤務の可否
ここは事実を書ける枠なので、比較的埋めやすいと思います。
枠4:将来性
いまではなく、この先についてです。
- 会社や事業そのものの見通し
- この会社で数年後、自分がどうなっているか
- 身につくスキルが、外でも通用するかどうか
4つのうち、いちばん書きにくいのがここかもしれません。書けない場合は、空欄のままでも構いません。
書き終えたら、量を見てみる
4つの枠を眺めて、どこがいちばん埋まっているでしょうか。一度立ち止まって、量の偏りを見てみてください。
1つの枠に集中している場合と、全部に少しずつ散らばっている場合とでは、次に取る手が変わってきます。
その不満は、社内で動かせるものでしょうか
分解できたら、次はこの問いを当てていきます。ここがこの記事の核心です。
動かせるものと、動かせないもの
書き出した項目を、2つに仕分けてみてください。
- 配置が変われば解決しうるもの……特定の上司との関係、いま担当している業務の内容、勤務地
- 会社の設計に関わるもの……給与テーブル、評価制度、事業の方向性、業界そのものの先行き
不満の相手が上司個人なら、異動や組織変更で状況が変わる可能性があります。一方、事業構造や制度に関わることなら、社内で待っていても変わりません。
上の欄が多かった場合
社内での異動希望や、業務分担の相談という選択肢が先に来ます。
転職より手間が少なく、うまくいけば人間関係や職務経歴を保ったまま状況を変えられます。もちろん、希望が通るとは限りません。
ただ、試してみて動かなかったという事実は、転職を決めるときの根拠になります。「社内で打つ手がなかった」と言えるかどうかは、面接で転職理由を説明する場面でも効いてきます。
下の欄が多かった場合
こちらは、社内にいるかぎり変わりにくい部分です。
時間が解決してくれるかどうかを考えてみてください。あと1年で状況が変わる見込みがあるのか、それとも構造として続くのか。
後者だと感じるなら、外を見始める理由としては十分だと思います。
どちらとも言えない項目もあります
実際には、きれいに二分できないものもあります。
たとえば「評価されていない」という不満は、上司の見方の問題かもしれませんし、評価制度の設計の問題かもしれません。
その場合は、一度上司との面談で確認してみるという手があります。何をすれば評価が上がるのかを具体的に聞いてみて、答えが返ってくるかどうかで見分けがつくことがあります。
枠の中でも、優先順位をつけてみる
4つの枠に書き出すと、項目が10個以上になることがあります。
そのままだと、どこから手をつければよいか分からなくなってしまいます。
そこで、書いた項目それぞれに印をつけてみてください。
- ◎……これが解消されるなら、他は我慢できる
- ○……解消されたら嬉しいが、決め手ではない
- △……気にはなるが、なくても困らない
この作業をすると、たいてい◎は1つか2つに絞られます。
その1つが、あなたにとっての本当の転職理由に近いものだと考えられます。
私がご相談でお会いする方の中には、書き出す前は「全部が嫌だ」とおっしゃっていたのに、印をつけてみたら◎が1つだけだった、という方が少なくありません。
そして、その1つが社内で動かせるものだった場合、転職以外の道が見えてきます。
転職以外の選択肢も並べてみる
選択肢は、転職するかしないかの2つではありません。
実際に取られている選択肢
面談でお話ししていると、次のような形に落ち着く方もいます。
- 社内異動……人や業務内容が理由の場合に有効
- 働き方を変える……時短、在宅の割合を増やすなど、条件面の一部を動かす
- 副業で別の経験を作る……本業を変えずに、身につくものへの不満を外で埋める
- いまは動かず、時期を決めて再検討する……状況が変わる見込みがあるとき
3つ目については、これから副業を始める人へ。続けられる人がやっている4つの準備で始め方を扱っています。勤務先の規則との関係は先に確認しておいてください。
比べるときの基準
それぞれの選択肢について、次の2つを考えてみてください。
- これを選んだ場合、書き出した不満のうちいくつが解決するか
- そのために、どれくらいの手間と時間がかかるか
解決する数が同じなら、手間が少ないほうから試すのが自然だと思います。どうでしょうか。
整理した内容を、面接で話せる形に変える
4つの枠に書き出したものは、そのまま面接で話す内容にはなりません。
不満をそのまま伝えると、環境のせいにしている印象で受け取られてしまうことがあるからです。
変換の手順は3つあります。
まず、いちばん量が多かった枠を1つ選びます。
次に、それを「何が足りなかったか」ではなく「何を求めているか」に言い換えます。
たとえば「評価が不透明だった」なら、「成果の基準が明確な環境で働きたい」という形になります。
最後に、その求めているものが応募先で得られる理由を、求人票や面談で聞いた内容から1つ添えます。
この3段階を踏むと、不満から出発した話が、志望の理由として成立します。
嘘をつく必要はありません。事実の伝え方を変えるだけです。
それでも言葉にならないとき
4つに分けても、うまく書けないという方もいらっしゃると思います。
感情のほうから入ってみる
不満を分類しようとすると止まる場合、先に感情を書いてみると出てくることがあります。
「悔しい」「情けない」「怖い」「疲れた」。どれかに近いものはあるでしょうか。そのうえで、いつ、どんな場面でそう感じたのかを思い出してみてください。
場面が浮かべば、そこから4つの枠に振り分けられます。
疲れているときは、一度離れる
心身が消耗している状態では、何を考えても暗いほうに寄ります。
休みを取ってから同じことを考えると、見え方が変わることがあります。整理が進まないこと自体を、うまくいっていない証拠のように受け取らないでください。
誰かに話してみる
人に説明しようとすると、自分でも気づいていなかった言葉が出てくることがあります。
相手はご家族でも友人でも構いません。助言をもらうためではなく、話しながら自分の考えを聞くために使ってみてください。
3か月後に、もう一度見返してみてください
一度書き出したものは、捨てずに残しておくことをおすすめしています。
3か月ほど経ってから同じ4つの枠に書き直すと、内容が変わっていることがあります。
そのとき見てほしいのは、変わった部分ではなく、残っている部分のほうです。
時間が経っても消えない不満は、環境が変わらない限り解消しない可能性が高いと考えられます。
逆に、書き直したら出てこなかった項目は、その時期の疲れや一時的な出来事だったのかもしれません。
私がご相談でよくお伝えしているのは、この見返しを1回挟むだけで判断の確からしさが変わる、ということです。
急いで決めなくてよい状況であれば、3か月は待ってみる価値があります。
書き出す時間が取れないとき
4つの枠を埋める作業は、落ち着いた時間がないと進みません。
まとまった時間が取れない場合は、1日1枠だけでも構いません。
通勤中にスマホのメモへ思いついたことを入れておいて、週末にまとめる形でも足ります。
大事なのは、頭の中だけで考え続けないことです。
考え続けている状態は、同じところを回っていることが多いように感じています。
整理しても気持ちが晴れないとき
枠に分けて、印もつけて、それでもすっきりしないことがあります。
そういうとき、原因が仕事の外にあることも考えられます。
生活のリズム、体調、人間関係。仕事以外の負荷が高いと、職場の出来事が実際より重く感じられることがあります。
整理しても晴れない場合は、判断を急がず、少し時間を置いてみてください。
それでも変わらないようであれば、そのときに動けば間に合います。
転職の機会は、この1回だけではありません。
整理したものを、誰に見せるか
書き出したものは、基本的に自分だけが見るもので構いません。
ただ、判断に迷っている段階であれば、社外の方に一度見てもらうのも一つの方法です。
社内の方に相談すると、話が広まってしまう可能性があります。
見てもらうときは、意見を求めるのではなく、抜けている視点がないかを聞く形にすると、判断を委ねずに済みます。
最終的に決めるのは、ご自身です。
書き出したものは残しておいてください
整理した内容は、判断が終わっても捨てないでおいてください。
転職先を選ぶときの基準になりますし、面接で志望の理由を話すときの 材料にもなります。
入社後に「思っていたのと違う」と感じたときも、当時の自分が何を求めていたかを確認できます。
まとめ:分けてから、動かせるかどうかを見る
「なんとなく不満」の整理法を見てきました。
人・仕事内容・条件・将来性の4つに分け、それぞれが配置で動かせるものか、会社の設計に関わるものかを仕分ける。ここまでできると、転職が必要かどうかの見当がついてきます。
分解した結果、社内で試せることが残っているなら、そちらが先かもしれません。試して動かなかったという経験は、後から効いてきます。
紙とペンを用意して、4つの枠を書くところまでを今日のぶんにしてみてはどうでしょうか。埋まらない枠があっても、それ自体が情報になります。
整理がついて次の段階に進めそうなら、転職を考え始めたとき最初にやる3つの準備と、経験を言葉にする職務経歴書に書くことがないと感じたときの棚卸し法が次に読む記事になります。
