キャリアアドバイザーの秋吉しおりです。
模擬面接で「自己PRをお願いします」と申し上げると、多くの方が数秒黙ります。準備してきたはずなのに、いざ声に出すと止まってしまう。
準備が足りなかったのでしょうか。私はそうは思いません。
これは話し方の問題ではないことがほとんどです。「強み」から考え始めているために、材料がないまま結論を探している状態になっています。
そこで順番を逆にします。経験のほうから言葉を作っていく方法を見ていきます。
強みから考えると、なぜ止まるのか
まず、詰まる仕組みを見ておきます。
抽象的な言葉には、根拠が付いてこない
「協調性があります」「責任感が強いです」。こうした言葉は、思いつくのは簡単です。
ところが面接官から「具体的には」と聞かれると、そこから先が続きません。言葉が先にあって、経験が後から探されているためです。
他の人と同じ答えになる
強みから考えると、たいてい似たような言葉に行き着きます。
コミュニケーション能力、粘り強さ、責任感。面接官は同じ言葉を1日に何度も聞いています。
差がつくのは強みの種類ではなく、その裏にある具体的な場面のほうです。
だから、経験から始めます
実際にあった出来事を1つ選び、そこから何が言えるかを後から考える。この順番にすると、根拠付きの言葉になります。
材料がまだ手元にないという方は、職務経歴書に書くことがないと感じたときの棚卸し法で業務を分解してから戻ってきてください。
5つの要素で組み立てる
ここが本題です。経験を語るときは、次の5つを順に並べます。
① 状況
いつ、どこで、どんな場面だったか。
ここは短くて構いません。聞き手が場面を思い浮かべられる程度で十分です。
「前職で、月末の請求処理が毎回遅れていた時期がありました」といった具合です。
② 自分の判断
その状況で、あなたは何が問題だと考えたか。
ここがいちばん大事で、いちばん抜けやすい部分です。行動だけを話すと「言われたことをやった人」に聞こえてしまいます。何を考えて、なぜそうしたのかを一言入れてください。
③ 行動
実際に何をしたか。
できるだけ具体的に、動詞で書きます。「改善しました」ではなく「関係する3部署に個別に確認して、締め切りを1週間前倒しにする案を提案しました」のように。
④ 結果
どうなったか。
数字があれば入れます。なければ「遅延がなくなった」「問い合わせが減った」といった変化の形で構いません。
うまくいかなかった経験でも大丈夫です。その場合は、そこから何を学んだかを続けてください。
⑤ 再現性
そして、この経験が応募先でどう活きるか。
「同じことができます」ではなく、「この考え方は、御社の◯◯という場面でも使えると思っています」という形にします。ここで初めて、応募先とつながります。
「再現性」が思いつかないとき
5つの要素のうち、最後の再現性でつまずく方が多いところです。
ここは「同じことが次もできます」と言い切る必要はありません。
お伝えしているのは、その経験から自分が何を学んだかを言葉にする、という考え方です。
たとえば、「先に関係者へ状況を共有しておくと、後の調整が早く進むと分かりました」といった形です。
学んだことが言えれば、それは別の場面でも使える判断として伝わります。
逆に、結果だけで終わってしまうと、たまたまうまくいった話に聞こえてしまいます。
実際に組み立ててみる
型だけでは分かりにくいので、例を挙げます。
組み立て前
「私の強みは責任感です。前職では請求業務を担当し、正確に処理することを心がけていました。御社でも責任を持って業務に取り組みます。」
間違ってはいないのですが、何をした人なのかが伝わりません。あなたの場合、この文面で面接官に何が残るでしょうか。
組み立て後
「前職で月末の請求処理を担当していたのですが、毎月2〜3日遅れが出ていました。(状況)
原因を確認したところ、営業部門からの情報が締め切りを過ぎて届くことが多く、こちらの作業手順ではなく、前工程に問題があると考えました。(判断)
そこで営業部門の3名に個別に確認し、締め切りを1週間前倒しにしたうえで、未提出の方へ自動でリマインドが届く仕組みを作りました。(行動)
結果として、月末の遅延は3か月でなくなり、残業も月10時間ほど減りました。(結果)
自分の作業を早くするのではなく、前工程まで含めて見るという進め方は、御社の管理部門でも活かせるのではないかと考えています。(再現性)」
違いはどこにあるか
後者では「責任感」という言葉を一度も使っていません。それなのに、仕事への向き合い方は伝わってこないでしょうか。
言葉で主張するのではなく、事実で示す。これがこの型の狙いです。
話す長さの目安
内容が決まったら、次は分量です。ここを外す方が多いので、具体的に書いておきます。
60〜90秒に収める
面接での自己PRは、60秒から90秒が目安になります。
話す速さは人によりますが、1分でおよそ300字前後が一般的です。つまり原稿にすると、300字から450字くらいの分量です。
意外と短いと感じるかもしれません。書いたものを声に出して測ってみると、たいていの方が長すぎることに気づきます。
長すぎるとどうなるか
3分話しても、面接官の記憶に残るのは1つか2つです。
それなら、要素を絞って確実に伝わるほうがいいと私は考えています。詳しく聞きたい部分は、向こうから質問してくれます。
削るときの順番
長くなった場合は、この順に削ってみてください。
- 状況の説明(背景を詳しく話しすぎている場合が多いです)
- 行動の細部(手順を全部説明する必要はありません)
- 複数のエピソード(1つに絞ります)
判断と再現性は、最後まで残してください。ここが削られると、型の意味がなくなります。
聞かれ方が変わっても答えられるように
自己PRは、いつも同じ聞かれ方をするとは限りません。
面接では、次のような形で尋ねられることがあります。
- 「これまでで、いちばん力を入れたことは何ですか」
- 「困難だった経験と、どう乗り越えたかを教えてください」
- 「あなたの強みを、具体例を交えて話してください」
- 「前職で、周囲からどう評価されていましたか」
言葉は違いますが、聞かれているのは同じことです。
どの場面で、何を判断して、どう動き、何が変わったのか。
ですから、答えを丸ごと用意するのではなく、5つの要素で組み立てた「場面」を持っておくほうが対応しやすくなります。
質問に合わせて、どの要素を厚く話すかを変えるだけで済むからです。
困難について聞かれたら状況と判断を厚く、強みについて聞かれたら再現性を厚く。同じ場面でも、伝わり方が変わります。
よくある失敗
模擬面接でよく見かける形を挙げておきます。
チームの成果を自分の成果として話す
「チームで売上を◯%伸ばしました」と話すと、たいてい「あなたは何を担当されましたか」と聞かれます。
最初から自分の担当範囲を明示しておくほうが、正確で誠実に聞こえます。
エピソードを盛る
実際より大きく話すと、掘り下げの質問で崩れます。
面接官は日常的に多くの方の話を聞いているため、具体性の薄い部分は分かってしまいます。等身大の話を丁寧に語るほうが、結果として伝わります。
丸暗記して話す
一字一句を覚えて話すと、質問で流れが崩れたときに戻れなくなります。
覚えるのは5つの要素の並びだけにして、言い回しはその場で組み立てるくらいがちょうどいいと思います。
応募先ごとに変えない
エピソードは同じでも、⑤の再現性の部分は応募先ごとに書き換えてください。
ここが前の会社向けのまま残っていると、使い回しているのが伝わってしまいます。
エピソードの選び方
3つ用意するとして、どれを選ぶかで迷う方がいます。
選ぶときの基準は、成果の大きさではありません。
見ていただきたいのは、次の2点です。
ひとつは、自分の判断が入っているかどうか。指示されたことをこなしただけの経験では、5つの要素のうち②が埋まりません。
もうひとつは、応募先で似た場面がありそうかどうかです。
華やかな成果より、応募先の日常に近い場面のほうが、再現性を感じてもらいやすくなります。
3つ選ぶときは、種類を変えておくと対応の幅が広がります。
ひとつは工夫や改善の話、ひとつは人との関わりの話、ひとつは困難を乗り越えた話。この組み合わせにしておくと、たいていの質問に当てられます。
準備しておくエピソードの数
最後に、どれくらい用意すればよいかについて。
3つあれば足ります
系統の違うものを3つ用意しておくと、たいていの質問に対応できます。
- ひとりで進めて成果が出た経験
- 周囲と協力して進めた経験
- うまくいかなかった経験と、その後の対応
3つ目を嫌がる方が多いのですが、失敗をどう扱ったかは面接でよく聞かれる部分です。準備しておくと落ち着いて話せます。
あなたの場合、思い浮かぶ経験はどれでしょうか。
声に出して1回だけ練習する
書いた原稿は、必ず一度声に出してください。
黙読では気づかない言いにくさや、長さのずれが分かります。録音して聞き返すのがいちばん効きますが、抵抗があれば読み上げるだけでも構いません。
本番で頭が真っ白になったとき
準備をしていても、その場で言葉が出なくなることはあります。
私がご相談でお伝えしているのは、無理に話し始めないことです。
「少し考えさせてください」と一言添えて、5秒だけ黙って構いません。
沈黙を埋めようとして話し始めると、要素の順番が崩れて長くなりがちです。
それでも出てこないときは、結果ではなく状況から話し始めてみてください。
「そのとき、こういう状況で」と場面を口に出すと、そこから先が続きやすくなります。
面接官の方も、完璧に話せる人を探しているわけではありません。
言葉に詰まりながらでも、自分の経験として話しているかどうかは伝わります。
逆に、流暢すぎる答えは、用意された内容だと受け取られることもあります。
面接後に、振り返りを残しておく
面接が終わったら、その日のうちに短くメモを残しておくことをおすすめしています。
書くのは3つだけで足ります。
聞かれた質問、うまく答えられなかった部分、次にどう答えるか。
この記録があると、2社目、3社目と受けるうちに答えが安定していきます。
複数社を受ける場合、この積み重ねが最も効いてくる部分だと感じています。
自己PRと志望動機は、つながっていると強くなります
別々に準備される方が多いのですが、この2つはつなげておくと伝わりやすくなります。
自己PRで話した判断や工夫が、応募先でも必要とされるものであれば、それがそのまま志望の理由になります。
「この経験を、御社の◯◯の場面で活かしたい」という一文が橋渡しになります。
逆に、両者が無関係だと、準備してきた内容を並べただけの印象になってしまいます。
3つのエピソードを選んだあと、それぞれが応募先のどの場面につながるかを書き添えてみてください。
準備の負担を軽くするために
3つのエピソードを作るのは、思っているより時間がかかります。
一度に仕上げようとせず、1週間で1つずつ組み立てる形をおすすめしています。
職務経歴書を書く作業と並行して進めると、材料が共通するぶん効率的です。
まとめ:言葉ではなく、場面で伝える
自己PRの作り方を、順を追って見てきました。
強みから考えるのをやめて、実際にあった場面を1つ選ぶ。それを状況・判断・行動・結果・再現性の5つに分けて並べ、60〜90秒に収める。
この手順です。
「責任感があります」と言う代わりに、責任感があると相手が感じる場面を話す。やっているのは、それだけのことです。
まずは、思い出せる場面を1つ選んで5つに分けてみてください。書けない要素はあったでしょうか。
②の判断が埋まらない場合は、その経験を別のものに差し替えたほうが早いかもしれません。
そもそも書き出す材料が足りないと感じたら、職務経歴書に書くことがないと感じたときの棚卸し法に戻ってみてください。順序としては、そちらが先になります。
