業務効率化コンサルタントの斎藤ほのかです。
締め切りに追われる状態が常態化すると、品質を上げるどころではなくなります。間に合わせることだけが目的になってしまうためです。
これも意志の問題として扱いません。予定の組み方を分解してみると、多くの場合は余白が入っていないだけです。
バッファをどこにどれだけ積むかという設計から入り、それでも遅れそうなときの連絡の型まで扱います。
抱えている総量を先に見る
バッファの設計に入る前に、確認しておきたいことがあります。
いま抱えている案件の合計が、使える時間に収まっているかどうかです。
収まっていない場合、バッファをどう積んでも間に合いません。
確認の方法は単純です。
抱えている案件の見積もり時間を全部足して、締め切りまでに使える時間と比べます。
合計が使える時間の8割を超えていたら、その時点で危険域です。
8割にするのは、バッファと予定外の対応の分を残すためです。
超えている場合にやることは、バッファの設計ではなく、案件の調整になります。
納期の相談か、範囲の縮小か、引き受けを止めるか。原因を分けて考えます。
締め切りに追われる原因
設計の前に、なぜ間に合わなくなるのかを整理します。
余白をゼロで組んでいる
作業時間の合計が締め切りまでの時間とちょうど同じなら、1つでも予定外が起きた時点で間に合いません。
そして、予定外は必ず起きます。余白がない予定は、計画ではなく願望です。
バッファを一律で乗せている
余白を取っている人でも、全体に2割足すような取り方をしていることがあります。
この方法には2つの問題があります。安全な工程にも余白がついて全体が長くなること、そして本当に危ない工程には足りていないことです。
見積もり自体がずれている
バッファ以前の問題として、そもそもの見積もりが短いこともあります。
その場合はバッファで吸収しきれません。見積もりの補正はタスクが終わらない原因を見積もりのズレから直す方法で先に済ませておく方法があります。
前倒しで着手する工程の選び方
他者依存の工程は先に着手する、と書きました。
具体的には、次のような工程が該当します。
- 確認や承認を待つもの……相手の都合で日数が読めません
- 素材や情報の提供を待つもの……届かないと後工程が全部止まります
- 外部への申し込みが必要なもの……処理に日数がかかることがあります
これらは、自分の作業が終わってから依頼するのでは遅すぎます。
着手した初日に依頼だけ先に出しておく。これだけで、待ち時間を自分の作業時間と重ねられます。
先に決めておくのは、着手日にやる「依頼リスト」です。
案件を受けたら、まず誰に何を依頼する必要があるかを書き出してください。
バッファは危ない工程にだけ積む
ここが本題です。全体ではなく工程を見ます。
不確実性が高いのはこの3つ
遅延を生みやすい工程には、はっきりした特徴があります。
- 初対応……やったことのない作業。工程が読めず、調べる時間が読めない
- 他者依存……素材の受け取り、情報提供、アカウントの発行など、相手が動かないと進まない
- レビュー待ち……確認や承認。返ってくるタイミングを自分で決められない
この3つに該当する工程にだけ、厚くバッファを積みます。慣れた作業には積みません。
積み方の目安
私が実務で使っている目安をお伝えします。ただし数字は自分の記録で調整してみてください。
- 慣れた作業……バッファなし、または見積もりどおり
- 初対応の工程……見積もりの2倍を確保する
- 他者依存・レビュー待ち……相手に伝えた期限の倍の日数を見ておく
他者依存を厚くするのは、相手が悪いからではありません。相手にも予定があり、こちらの締め切りを知らないためです。
バッファは末尾にまとめて置く
各工程に少しずつ余白を配ると、その余白は必ず使われます。時間があると作業は膨らむためです。
そこで、余白は工程の間ではなく、締め切りの手前にまとめて置きます。前倒しで終われば余白が残り、遅れが出たらそこで吸収します。
複数の締め切りが重なったとき
案件がひとつなら、バッファの設計は難しくありません。
問題は、締め切りが重なったときです。
このとき、それぞれにバッファを積むと、合計が現実的でない量になります。
私がお伝えしているのは、案件ごとではなく、週単位でバッファを持つという考え方です。
各案件は、危険な工程にだけ最小限を積みます。
そのうえで、週の中に1日、どの案件にも割り当てていない日を作ります。
その日が、重なったときの吸収先になります。
もうひとつ、締め切りが重なると分かった時点で、どれか1つの前倒しを相談してください。
全部を抱えたまま進めて、直前に全部が遅れる形がいちばん影響が大きくなります。
先に決めておく、というのは、こういう調整を早い段階でやっておくことでもあります。
実践的なスケジューリング
具体的な組み方を手順にします。
ステップ1:工程に分けて、危険度をつける
作業を工程に分け、それぞれが3つの不確実要素に当たるかを見ます。
・素材の受け取り(他者依存)→ 危険 ・構成づくり(慣れた作業)→ 安全 ・執筆(慣れた作業)→ 安全 ・先方レビュー(レビュー待ち)→ 危険 ・修正対応(初対応の分野)→ 危険
ステップ2:危険な工程だけ厚くする
危険と判定した工程に、上の目安でバッファを積みます。安全な工程はそのままです。
ステップ3:自分の締め切りを前に置く
相手に伝えた締め切りとは別に、自分用の締め切りを設定します。
この2つの差が、まとめて置いたバッファになります。先に決めておくのは、自分用の締め切りのほうです。
相手の締め切りだけを見ていると、余白は消えます。
ステップ4:他者依存の工程を先に着手する
順番の話です。相手が動く必要のある工程は、最初に投げてください。
素材の依頼や確認事項は、着手初日に送っておけば、待ち時間が他の作業と並行します。最後に回すと、そこで丸ごと止まります。
危険度をどう見分けるか
危ない工程にだけ積む、と書きましたが、見分け方に迷うところだと思います。
私が使っているのは、次の3つの質問です。
- この工程を、過去に同じ条件でやったことがあるか……初めてなら危険度が上がります
- 他の人の返答を待つ工程が含まれるか……自分で完結しないものは読めません
- 終わりの条件が明確か……「よくなるまで」といった工程は、際限なく伸びます
3つのうち1つでも当てはまれば、バッファを積む対象になります。
2つ以上当てはまる工程は、分割して着手時期を前倒しするほうが確実です。
原因を分けて考えます。遅れる工程には、必ずこの3つのどれかが含まれています。
それでも遅れそうなときの連絡
バッファを積んでも遅れることはあります。ここでの対応が信用を左右します。
連絡の型は3つ
遅れが見えた時点で、次の3つを守って連絡してください。
- 早く……気づいた時点で。締め切り当日ではなく、遅れる見込みが立った日に
- 具体的に……「少し遅れそう」ではなく「◯日の◯時に提出できます」と日時で
- 代案付き……全部を遅らせるのか、一部を先に出せるのかまで示す
実際の文面
形にすると、こうなります。
「【納期のご相談】記事Aの提出について、当初8月3日でお約束していましたが、8月5日の午前中までとさせていただけないでしょうか。
・理由:参考資料の確認に想定より時間がかかっています
・代案:本文のみ8月3日にお送りし、図版を8月5日に追送する形も可能です
・ご都合を教えていただければ、そちらに合わせます」
連絡の書き方そのものは会議・連絡のムダを減らすチャット文章の書き方で扱った4点固定の型と同じです。
遅れそうだと分かった日に送る
いちばん信用を損なうのは、締め切り当日に連絡することです。
相手はその日まで予定を組んでいます。2日前に伝われば調整できたことが、当日では手遅れになります。
遅れたこと自体より、相手が調整する時間を奪ったことのほうが問題として残ります。
バッファを使い切ってしまう人へ
バッファを積んでも、結局その分まで使ってしまう。これはよくご相談を受けます。
原因は、バッファを作業時間として認識してしまうことにあります。
対策は2つあります。
ひとつは、バッファを予定表に書かないことです。
空白のまま残しておくと、埋めようという意識が働きにくくなります。
もうひとつは、自分の締め切りを本当の締め切りより前に置き、そちらだけを見ることです。
手帳やカレンダーには、前倒しした日付だけを書きます。
本当の期日は、別の場所に控えておいてください。
この形にすると、バッファがあることを意識せずに進められます。
仕組みにしてしまえば、意志で我慢する必要がなくなります。
遅延の理由を分類しておく
遅れたときの理由を記録しておくと、次の設計に使えます。
分類は4つで足ります。
- 見積もりが甘かった……倍率の見直しで改善します
- 他者を待った……着手の順番を変えます
- 割り込みが入った……予定に余白を増やします
- 体調や事情……これは設計では防げません
4つ目が多い場合、抱えている量そのものを見直す時期に来ています。
記録して次に生かす
最後に、バッファの精度を上げる方法をお伝えします。
使ったバッファを記録する
案件が終わったら、積んだバッファのうちどれだけ使ったかをメモしておくと後で使えます。
毎回使い切っているなら足りていませんし、毎回余っているなら積みすぎです。数件たまれば、自分に合った量が見えてきます。
遅延の理由を分類する
遅れた案件は、原因が3つのどれだったかを記録します。
他者依存で遅れることが多いなら、依頼のタイミングを早める。初対応で遅れるなら、調べる工程をさらに厚くする。
仕組みにしてしまえば、同じ理由で2回遅れることは減ります。
抱えている総量も確認する
バッファを積んでも入りきらないなら、量の問題です。
全体の組み方は副業と本業を両立する人のスケジュールの組み方で整理しています。
相手の締め切りと、自分の締め切りを分ける
締め切りには2種類あります。
相手に伝えた期日と、自分の中で設定した期日です。
この2つを同じにしていると、余白がまったくない状態になります。
おすすめしているのは、自分の締め切りを2営業日前に置くことです。
2日あれば、見直しも、想定外の修正も入ります。
相手からの確認が必要な案件なら、さらに前に置いてください。
ここで大事なのは、前倒しした日付だけを予定表に書くことです。
本当の期日を並べて書くと、そちらを基準に動いてしまいます。
仕組みにしてしまえば、毎回の意識づけが要らなくなります。
バッファがあっても遅れたとき
危険度を見分けて積んでも、遅れることはあります。
そのとき確認したいのは、どの工程で使い切ったかです。
積んだ工程で使ったなら、見積もりの精度の問題になります。
積んでいない工程で溢れたなら、危険度の見分け方のほうを直す必要があります。
原因を分けて考えます。同じ遅延でも、次に打つ手が変わります。
バッファの設計は、一度決めて終わりではありません。
案件の種類が変われば、危ない工程も変わります。
3か月に一度、記録を見返して積む場所を調整してください。
次の案件で、工程に危険度をつけるところから試してみてください。
それだけでも、遅れ方が変わってきます。
まとめ:危ない工程を見分けて、そこに積む
設計の要点は2つです。
余白は全体に一律で乗せるのではなく、初対応・他者依存・レビュー待ちの3つにだけ厚く積む。積んだ余白は工程の間ではなく締め切りの手前にまとめ、自分用の締め切りを別に持つ。
この形です。
遅れそうなときに信用を守るのは、遅れない努力ではなく、早く・具体的に・代案付きで伝える連絡のほうです。
いま抱えている案件のうち、相手が動かないと進まない工程を1つ探して、今日中に依頼を送っておく。
待ち時間を前に寄せておくと、締め切り前の圧迫が軽くなります。バッファを積み直すのは、そのあとで間に合います。
