業務効率化コンサルタントの斎藤ほのかです。
「今日中に終わるはずだった作業が終わらない」という状態が続くと、自分の集中力や気力を疑いたくなります。
ただ、予定どおりに終わらない案件を並べてみると、ぶつかっているのは能力ではなく最初の見積もりであることがほとんどです。
見積もりがなぜ甘くなるのかを分解したうえで、精度を上げる手順まで進みます。
予定に入れていない時間を数える
見積もりのずれには、作業そのもの以外の要因も含まれます。
1日の中で、予定表に書かれていない時間がどれくらいあるかを一度数えてみてください。
実際に測ると、次のような時間が出てきます。
- 作業を切り替えるときの立ち上げ時間
- 連絡への対応と、そこから戻る時間
- 資料やファイルを探す時間
- 移動や準備の時間
これらを合計すると、1日のうち1〜2時間になることは珍しくありません。
予定表が作業時間だけで埋まっていると、この分がそのまま超過になります。
原因を分けて考えます。見積もりが甘いのではなく、予定に入れていない時間があるだけ、という場合が多いのです。
対処は単純で、1日に埋める作業時間を実働の7割程度にとどめる形になります。
終わらない本当の原因
まず、何が起きているのかを正確に言語化するところから始めます。
予定と実績のどちらがずれているのか
タスクが終わらないとき、起きていることは2通りしかありません。
- 実績が遅い……見積もりは妥当だったが、作業が予定より遅れた
- 見積もりが甘い……作業は普通に進んだが、最初の想定が短すぎた
この2つを区別せずに「終わらなかった」とだけ記録していると、毎回同じ結果になります。直す対象がまったく違うためです。
ほとんどは後者です
実際に記録を取ってもらうと、多くは見積もりのほうがずれています。
しかも、ずれ方には規則性があります。毎回でたらめにずれるのではなく、いつも同じ方向に、似た比率でずれます。
規則性があるということは、補正できるということです。原因を分けて考えると、直す対象は見積もりの側だと決まります。
ずれ方には個人の癖が出ます
記録を取り始めると、自分のずれ方に傾向があることが見えてきます。
私が現場で見てきた範囲では、次の3つに分かれることが多いです。
- 全体的に短く見積もる……どの工程も一律に1.5倍ほどかかる。倍率をかけるだけで改善します
- 特定の工程だけ大きく外す……調べる工程や、他者の確認が入る工程に集中する
- 日によって大きく振れる……集中できた日とそうでない日の差が大きい
タイプによって、打つ手が変わります。
1つ目なら倍率で解決します。2つ目なら、その工程だけを細かく分けます。
3つ目の場合、見積もりの問題ではなく、作業環境や体調の問題であることが多いです。
原因を分けて考えます。同じ「ずれる」でも、対処はまったく違います。
見積もりが甘くなる理由
なぜ短く見積もってしまうのか。理由は3つあります。
理由1:「作業」しか数えていない
これが最大の原因です。
記事を1本書く作業を見積もるとき、多くの人は「書く時間」だけを数えます。ですが実際には、次の時間が発生しています。
- 調べる……書き始めてから足りない情報に気づいて調べ直す
- 待つ……相手の確認、素材の受け取り、承認
- 直す……自分の見直しと、相手からの修正依頼への対応
調べる・待つ・直す。この3つを数えていないことが、見積もりが半分になる理由です。
理由2:うまくいった日を基準にしている
見積もるとき、人は調子がよかったときの記憶を使います。
集中できて、割り込みがなく、迷わずに進んだ日。その日を基準にすると、平均的な日には届きません。
理由3:初めての作業を過小に見る
やったことのない作業ほど、工程が見えていないため短く見えます。
実際には調べる時間が大きく、手戻りも増えます。初回はここが読めなくて当然なので、後述する方法で吸収します。
他人から渡された見積もりを扱うとき
自分で立てた見積もりだけでなく、他人から渡された数字を扱う場面もあります。
「これ、半日でできますよね」と言われるような場面です。
このとき、その場で答えないでください。
私がお伝えしているのは、工程に分けてから返すという手順です。
「調べる部分がどれくらいかによります。1時間で確認して、あらためてお返事します」
この返し方なら、断ってもいませんし、無理な約束もしていません。
その場で受けてしまうと、後で調整が効かなくなります。
先に決めておくとよいのは、即答しないというルール自体です。
ルールにしておけば、その場の空気に流されずに済みます。
精度を上げる手順
ここからは実際の手順です。3ステップで進めます。
ステップ1:工程に分けて見積もる
タスク全体を1つの塊で見積もるのをやめて、工程ごとに分けます。
記事を1本書くなら、こうなります。
- 調べる:40分
- 構成を決める:20分
- 書く:90分
- 見直す:30分
- 先方の確認待ち:2日(自分の作業時間は0分。ただし納期には効きます)
- 修正対応:30分
作業時間だけ足すと3時間半ですが、納期を考えるなら確認待ちの2日も予定に入ります。塊のまま見積もると、多くの人は「2時間くらい」と答えます。
この差が、そのままずれになります。
待ち時間は自分の作業時間には入りませんが、締め切りには確実に効きます。だから工程としては書き出しておく、という方法があります。
ステップ2:実測を記録する
次に、実際にかかった時間を工程ごとに記録します。
ストップウォッチを使う必要はありません。開始時刻と終了時刻をメモするだけで足ります。
ここで大事なのは、見積もりと実績を並べて残しておくことです。片方だけでは補正の材料になりません。
ステップ3:自分の倍率を出す
3〜5件たまったら、実績を見積もりで割ります。
たとえば見積もり2時間の作業が実際は3時間かかっていたなら、倍率は1.5です。これを数件分ならして、自分の倍率を出します。
仕組みにしてしまえば、あとは見積もった時間にこの倍率を掛けるだけです。見積もる力そのものを鍛えなくても、精度は上がります。
倍率は工程によって違うこともあります。「調べる」だけ2倍で他は1.2倍、というように分かれる場合は、工程ごとに持つ方法があります。
工程に分けるときの粒度
工程に分ける、と言われても、どこまで細かくするか迷うところだと思います。
私が研修でお伝えしている目安は、1工程あたり30分から2時間に収まる大きさです。
30分を切ると、分けること自体が手間になります。
2時間を超えると、その中で何が起きているか見えなくなります。
たとえば「記事を1本書く」は大きすぎます。
これを「構成を決める」「調べる」「書く」「見直す」「体裁を整える」に分けると、それぞれが30分から2時間の範囲に入ります。
原因を分けて考えます。ずれているのがどの工程かは、この粒度まで下ろさないと分かりません。
先に決めておくと楽なのが、工程の名前です。
毎回違う言い方をすると、記録が比較できなくなります。自分の中で5つほどの定型を決めておいてください。
倍率は作業の種類ごとに出す
自分の倍率をひとつ出したら、それで全部に当てはめたくなります。
ただ、実際には作業の種類によって倍率が違います。
慣れた作業は1.1倍で済むのに、初めての領域では2倍を超えることもあります。
ですから、倍率は3種類ほどに分けて持っておいてください。
慣れた作業、たまにやる作業、初めての作業。この区分で足ります。
先に決めておくと、見積もりのたびに迷いません。
1回で当てようとしない
この手順を実践するときに、いちばん誤解されやすい点をお伝えします。
目的は当てることではありません
見積もりの精度を上げるといっても、毎回ぴったり当てるのは無理です。作業には不確実な要素が含まれるためです。
目指すのは、ずれ方を知っていることです。自分は1.5倍かかると分かっていれば、予定は組めます。
だから記録を止めない
倍率は状況によって変わります。慣れた作業では下がり、新しい分野では上がります。
3か月に一度、直近の数件で計算し直すという方法があります。この頻度で足ります。
初めての作業は「調べる」を厚く積む
やったことのない作業では、過去の倍率が使えません。
その場合は、調べる工程だけを普段の2倍にして見積もってみてください。初回のずれは、ほとんどがここから出ます。
見積もりを共有する相手がいる場合
自分だけの作業なら、ずれても調整できます。
ただ、クライアントやチームに納期を伝える場合は、伝え方に一手間かけたほうが安全です。
おすすめしているのは、幅で伝える形です。
「3日で仕上げます」ではなく「順調にいけば3日、確認が必要な箇所があれば5日を見ています」と伝えます。
幅を先に示しておくと、遅れたときに交渉ではなく報告として扱えます。
もうひとつ有効なのが、中間の報告日を先に決めておくことです。
「2日目の夕方に進捗をお送りします」と決めておけば、その時点でずれに気づけます。
相手にとっても、状況が分かるほうが安心できます。
仕組みにしてしまえば、報告のたびに迷う必要がなくなります。
実践に落とし込むときの注意
最後に、運用でつまずきやすい点を3つ挙げておきます。
記録が続かないときは項目を減らす
工程を5つに分けて毎回記録するのが重いなら、2つに減らして構いません。
「調べる+書く」と「直す」の2区分でも、倍率は出せます。続かない仕組みは、精度が高くても働きません。
他人と比べない
倍率は、その人の作業の進め方と品質基準によって変わります。
1.2倍の人が優秀で2倍の人が劣っているわけではありません。比べるのは過去の自分だけで十分です。
タスクが多すぎる場合は見積もりの問題ではない
ここは切り分けておくと混乱しません。
1つ1つの見積もりが正しくても、抱えている総量が可処分時間を超えていれば終わりません。その場合に必要なのは精度ではなく、量を減らす判断です。
減らし方はやることを減らすための「やらないことリスト」の作り方で扱っています。
記録を続けるための最小の形
実測を記録する、というのが一番続きにくい部分だと思います。
私がすすめているのは、開始時刻と終了時刻だけを書く形です。
ストップウォッチも、専用のツールも要りません。
作業を始めるときに時刻を書き、終わったときに時刻を書く。それだけです。
5分単位で構いませんし、休憩を厳密に除く必要もありません。
精度を求めると続かなくなります。傾向が分かれば十分です。
2週間分たまれば、自分の倍率は出せます。
そのあとは、毎回記録しなくても構いません。新しい種類の作業をするときだけ取れば足ります。
チームで使うときの注意
この方法をチームで使う場合、記録を共有するかどうかを先に決めてください。
共有すると、遅い人が責められる材料になってしまうことがあります。
私がすすめているのは、個人の記録は本人だけが持ち、見積もりの倍率だけを共有する形です。
倍率が分かれば、計画は立てられます。誰が何時間かけたかまでは要りません。
先に決めておくと、記録を隠す動きが出なくなります。
記録を始めた最初の2週間は、数字が安定しません。
そこで判断せず、まず続けてみてください。
数字が出るまでは、判断を保留してください。
まとめ:ずれを直すのではなく、ずれを知る
要点を3つに絞ります。
見積もりが甘くなるのは、調べる・待つ・直すを数えていないからです。工程に分けて見積もり、実測を記録し、自分の倍率を出す。
この3ステップで補正できます。
見積もりを当てられるようになる必要はありません。自分が何倍ずれるかを知っていれば、予定は成立します。
次に着手するタスクに、始める前の見積もり時間をメモしておく。終わったら実際の時間を横に書き足す。
この2行だけで、補正の材料はそろいます。
倍率を計算するのは、3件たまってから。それまでは、ただ数字を並べておくだけで足ります。
出した倍率を週の予定にどう反映するかは、副業と本業を両立する人のスケジュールの組み方で扱っています。
