家計改善アドバイザーの真鍋みゆです。
3年前より手取りが5万円増えた。それなのに、貯金残高はほとんど変わっていない。
この状態でご相談に来られる方は、決して珍しくありません。そして多くの方が「自分は浪費家なのかもしれない」とおっしゃいます。
でも、明細を1行ずつたどっても、無駄遣いらしい無駄遣いは見当たらないことがほとんどなんです。起きているのは、もっと静かなことです。
増えた分は、どこへ行ったのか
まず、何が起きているのかを見ていきます。
生活の水準は、下がりにくい
収入が増えると、私たちの生活は自然と少しずつ上がります。
スーパーで値段を見る回数が減る。ランチの選択肢が広がる。
少し家賃の高い部屋に住む。こうした小さな変化が、いつの間にか毎月の基準になります。
ひとつひとつは小さいのですが、いったん上がった水準は、意識しないと下がりません。
気づきにくいのは、痛みがないから
無駄遣いには自覚が伴いますが、生活水準の膨張には自覚がありません。
「贅沢をした」ではなく「そういう生活になった」と感じるだけなので、見直す理由が生まれないんです。
だから、収入が増えているのに残らない、という状態が何年も続きます。
責める話ではありません
先にお伝えしておきますが、生活水準が上がること自体は悪いことではありません。
働いて収入を増やしたのだから、暮らしが楽になるのは当然です。問題は、増えた分が全部そちらへ流れて、選ぶ余地がなくなってしまうことのほうなんですよね。
膨張が起きやすい5つのタイミング
ご相談を受けていると、水準が上がる場面はだいたい決まっています。
1. 昇給・昇進したとき
いちばん多いのがここです。月に2万円増えたとき、その2万円は口座に入るだけで用途が決まっていません。
用途が決まっていないお金は、生活費に吸収されます。翌年には、それが標準になっています。
2. 転職したとき
収入が上がる転職では、同じことが起きます。
加えて、通勤経路や職場の環境が変わることで、外食やコーヒーの回数といった細かい支出も変わります。環境が変わる時期は、支出の形も一緒に変わります。
3. 結婚したとき
世帯収入は増えますが、住居が広くなり、光熱費も食費も増えます。
そして、お互いの支出をどこまで共有するかが決まっていないと、把握そのものが難しくなります。この整理は夫婦の家計を共有するときの口座と分担の決め方で扱っています。
4. 子どもが独立したとき
教育費が終わって、月に数万円が浮く時期です。
ここは本来、老後に向けて貯められる大事な期間なのですが、旅行や趣味に自然と流れていきます。浮いた分の行き先を決めていないと、数年で元の残高に戻ります。
5. 引っ越したとき
家賃が上がるのはもちろんですが、それだけではありません。
新しい部屋に合う家具、カーテン、家電。引っ越しは、まとまった支出が連鎖しやすい場面です。
適正家賃の考え方は一人暮らしの適正家賃を手取りから逆算するにまとめました。
止め方は「増えた分の行き先を先に決める」
やるのは、削ることではありません。流れる前に分けることです。
昇給した月にやることは1つ
手取りが増えたら、増えた分だけを、その月のうちに貯蓄の自動振替に上乗せしてください。
2万円増えたなら、1万円を積立に足す。残りの1万円は自由に使う。
これだけです。
大事なのは金額の大小ではなく、生活費の口座に入る前に分けてしまうことです。一度生活費として使い始めると、後から取り戻すのは難しくなります。
「入る前に分ける」がなぜ効くのかは、家計簿が続かない人のための「記録しない家計管理」の発想そのものです。
割合の目安について
「増えた分の半分を貯蓄へ」という考え方がよく紹介されます。私も相談の場でお伝えすることがあります。
ただし、この半分という数字に公的な根拠があるわけではありません。一般に流通している目安です。
3割でも7割でも構いません。無理なく続けるなら、全部を貯蓄に回さず、少し使える分を残すほうが反動が出にくいと感じています。
差がどれくらい出るか、置いてみます
手取りが2万円増えたとして、そのうち1万円を積立に上乗せした場合と、しなかった場合を並べます。
【上乗せした場合】 月10,000円 × 12か月 × 5年 = 600,000円 【上乗せしなかった場合】 増えた2万円は生活費へ = 0円 ────────────────────────────── 5年後の差 600,000円
これは利息や運用益を一切見込まない、ただの足し算です。金額はご自身の昇給額に置き換えてください。
注目していただきたいのは、この60万円を作るために生活を何ひとつ下げていないことです。増えた分の半分を、来る前に分けただけなんですよね。
自動振替の金額を変えるだけ
具体的な操作としては、すでに設定してある自動振替の金額を上げるだけです。
設定の仕方は先取り貯金の口座の分け方と自動化の設定にありますが、まだ設定していない場合は、昇給が仕組みを作るいい機会になります。
増やす支出にも期限をつける
収入が増えた機会に、暮らしを良くする支出を選ぶこと自体は問題ありません。ただし「とりあえず上位プラン」「せっかくだから広い部屋」と決める前に、何を良くしたいかを言葉にします。
- 睡眠を改善したいので、寝具へ一度だけ使う
- 通勤時間を減らしたいので、更新時まで住居候補を比べる
- 家事時間を減らしたいので、3か月だけサービスを試す
毎月続く契約には、3か月後の確認日をつけてください。期待した変化がなければ元へ戻せる形なら、満足度を上げながら膨張を管理できます。
世帯の形によって、膨らみ方が変わります
膨張の起き方は、暮らしの形によってずいぶん違います。
一人暮らしの場合、増えやすいのは食費と趣味に関わる支出です。
自分の判断だけで完結するので、増えるのも早い代わりに、戻すのも比較的やさしい部分になります。
一方、家族と暮らしている場合は、増えるのが固定費に寄ります。
住まい、通信、習い事、保険といった、契約を伴うものですね。
契約が絡むものは、増やすときより戻すときのほうが手間がかかります。
家計を見せていただくと、「増やしたときは一瞬だったのに、戻すのに半年かかった」という声をよく聞きます。
だからこそ、家族のいる世帯では増やす前に一度立ち止まる価値があります。
もうひとつ、共働きの世帯で起きやすいのが、お互いの支出が見えないまま両方が増えるパターンです。
片方だけが我慢しても効きにくいので、この場合は先に合計額を見るところから始めてください。
すでに膨らんでしまっている場合
「もう水準が上がってしまった」という方も多いと思います。ここからの話です。
全部を戻そうとしない
いまの生活を一気に数年前に戻すのは、まず続きません。
やるとしたら、上がった項目のうち、満足度が低いものだけを1つ選んで戻す形です。全部ではなく1つ。
満足度で仕分けてみる
支出を金額順ではなく、満足度で並べてみてください。
- お金を払ってよかったと感じるもの
- あってもなくても変わらないもの
- 惰性で続いているもの
よくあるのが、3つ目に該当するサブスクや、使っていない定期購入です。これらを止めても、生活の質はほとんど変わりません。
固定費から見る
戻す対象を探すなら、変動費より固定費です。
1回見直せば毎月効き続けるので、我慢の総量がまったく違います。仕分けの基準は支出を「固定費・変動費・自己投資」で仕分ける基準で整理しています。
増えた時期を境にして比べる
何が膨らんだか分からないときは、昇給や転職の前3か月と、現在の3か月を比べます。細かなレシートではなく、通帳やカード明細の定期的な支払いだけで構いません。
- 家賃・駐車場・保険など、契約で固定されたもの
- 通信プラン・サブスク・定期購入など、自動で続くもの
- 外食・配車・ネット注文など、回数が増えたもの
差額が大きい順に3つ並べ、その中から満足度の低いものを1つ選びます。収入が増える前の暮らしへ全部戻す作業ではありません。
戻すなら1か月だけ試す
解約や引っ越しのように戻しにくい変更は、すぐに実行しないでください。まずプランを下げる、利用回数を半分にする、休止機能を使うなど、小さく試します。
1か月後に「困った回数」「浮いた金額」「満足度」を確かめ、困らなければ続けます。生活の質が大きく下がったなら元へ戻し、次の候補を試せばいいんです。
浪費のきっかけから整理したい方は、浪費の原因と、浪費癖を整えて貯める方法も参考になります。
戻した金額の行き先まで決める
月8,000円の契約を止めても、そのままでは別の支出へ流れます。解約と同じ日に、自動振替を8,000円増やすか、近い特別費の積立へ回してください。
残高に結果が残るところまでが見直しです。3か月後に貯蓄残高が2万4,000円増えていれば、暮らしを下げた感覚ではなく、選び直した成果として見えます。
戻せなかったときの考え方
試してみたけれど戻せなかった。これも珍しいことではありません。
そのときに「意志が弱いから」と結論づけないでいただきたいんです。
戻せない支出には、たいてい理由があります。
- 時間や体力を買っている(時短家電、宅配、外食)
- 移動や住まいに紐づいていて、単体では動かせない
- 家族の生活リズムに組み込まれていて、自分だけでは決められない
このうち1つ目に当てはまるなら、無理に戻す必要はないと私は考えています。
支出が増えた代わりに時間が戻っているなら、それは膨張ではなく交換です。
問題なのは、増えたのに何も戻っていない支出のほうですよね。
2つ目と3つ目に当てはまる場合は、今すぐではなく、契約更新や引っ越しといった区切りに合わせて見直すほうが現実的です。
そのときまで、金額だけメモに残しておいてください。
下げなくていいもの
逆に、削らないほうがいいものもお伝えしておきます。
健康と睡眠に関わるもの
食費を極端に削ったり、体調を崩しやすい環境で我慢したりするのは、長い目で見ると割に合いません。
仕事の成果に直結するもの
働くための道具や、学びに使うお金は、支出というより先の収入につながる部分です。
この考え方は支出を「固定費・変動費・自己投資」で仕分ける基準で第3の分類として扱っています。
人との関係に関わるもの
交際費をゼロにすると、続かないだけでなく、暮らしそのものが痩せていきます。
回数を減らすのではなく、1回あたりの形を変えるほうが無理がありません。
1年後に確認したいこと
止め方を決めたら、1年後に一度だけ振り返ってください。
見るのは2つだけです。貯蓄の残高が増えているかと、増やした支出のうち今も満足しているものがどれか。
残高が増えていれば、行き先を決める形は機能しています。
増えていない場合、振替の金額を上げ忘れているか、別のところで新しい支出が始まっている可能性があります。
満足していない支出が見つかったら、そこが次に戻す候補になりますよね。
まとめ:増えた分に、先に行き先を作る
確認する順番は、収入が増えた月に振り分け、増えた契約へ確認日をつけ、戻した金額を貯蓄へ移す、の3つです。
収入が変わらない年も、契約の更新月に同じ確認ができます。増えた支出へ目的と期限があるかだけを見直してください。
収入が増えたときこそ、いちばん楽に貯蓄を増やせる時期です。いまの生活を下げなくていいので、痛みがありません。
逆に言えば、その時期を逃すと、あとから同じ額を作るには生活を下げるしかなくなります。膨張が起きるのは意志が弱いからではなく、行き先が決まっていないお金が生活費のほうへ流れていくからです。
昇給・転職・結婚・子の独立・引越。この5つが来たら、増えた分の行き先をその月のうちに決めてください。
次に手取りが増えたら、その日のうちに自動振替の金額を上げる。スマートフォンのメモにでも書いておいてください。
忘れた頃にやってきますから。
