キャリアアドバイザーの秋吉しおりです。
「エージェントとサイト、どちらを使えばいいですか」。この質問を面談でよくいただきます。
お答えする前に、私はいつも仕組みの話から始めます。どちらが良いかは、それぞれがどうやって収益を得ているかを知ると、かなり判断しやすくなるからです。
まず構造をお伝えしたうえで、使い分けを一緒に考えていきましょう。
先に、お金の流れをお話しします
私自身が人材紹介の側にいた人間なので、ここは正直に書いておきます。
あなたは払っていません。企業が払っています
転職エージェントを使うとき、求職者は費用を負担しません。これは各社のサービス方針というより、法律の建て付けによるものです。
職業安定法では、有料職業紹介事業者が求職者から手数料を徴収することは原則として禁止されています。収益は、採用した企業の側から受け取る成功報酬です。
制度の枠組みは厚生労働省の職業紹介事業のページで確認できます。
いくら払われているのか
手数料の決め方は、法律上2つの方式があります。
- 上限制手数料……就職後6か月間に支払われた賃金額の11.0%(免税事業者は10.3%)に相当する額が上限になる方式
- 届出制手数料……あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づいて受け取る方式
実際に転職エージェントが採っているのは、ほとんどが後者の届出制です。採用された方の年収に対する一定の割合を、企業が支払う形になります。
その割合は、実は公開されています
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
2025年4月から、有料職業紹介事業者は職種ごとの平均手数料率を公開することが求められるようになりました。常用就職の実績が多い上位5職種が対象です(実績が10件以下の職種は対象外)。
この平均手数料率は、次の式で計算されています。
求人者から徴収した手数料の総額 ÷ 求職者の予定年収の総額
つまり、その職種で平均するとどれくらいが事業者に渡っているのかを、事業者ごとに数字で見られるということです。あくまで職種単位の平均なので、あなたの案件にそのまま当てはまるわけではありません。それでも、人づてに聞いた相場よりは確かな手がかりになります。
制度の詳細は厚生労働省の紹介手数料率の実績の公開と違約金規約の明示について(PDF)で確認できます。
どこで見られるか
公開されている場所は、厚生労働省の人材サービス総合サイトです。事業者名で検索できます。
ここで確認できるのは、主に次のような内容です。
- 職種ごとの平均手数料率(または定額制の場合はその額)
- 無期雇用で就職した人の数
- そのうち、就職から6か月以内に離職した人の数(事業主都合による離職は除きます)
- 返戻金制度の有無
気になるエージェントがあれば、登録する前に一度名前を入れてみてください。どのくらいの手数料率で、どれだけの人が就職し、そのうち何人が半年以内に辞めているか。この3つが分かるだけでも、見え方が変わるのではないでしょうか。
この構造から、何が起きるか
仕組みが分かると、実際の体験にも説明がつきます。
あなたに費用がかからない理由
企業側が払っているので、求職者はいくら相談しても無料です。
ここは素直に利点だと思います。書類の添削も面接の練習も、費用を気にせず頼めます。
年収の高い求人に力が入りやすい
報酬が年収に連動するため、事業者にとっては年収の高い案件のほうが収益が大きくなります。
担当者の熱量が案件によって違うと感じることがあるとすれば、この構造が背景にある場合があります。担当者個人の姿勢の問題とは限りません。
決まらないと収益にならない
成功報酬なので、応募も面接も、決まらなければ事業者の収益はゼロです。
そのため、応募を勧められたり、内定後の返答を早めるよう促されたりすることがあります。悪意があるわけではなく、そういう仕組みだということです。
急かされていると感じたときは、「◯日までに考えて返事します」と期限を自分から示してみてください。それで関係が悪くなるようなら、担当を変えてもらうという選択もあります。
早期離職も記録に残る
ひとつ補足しておくと、紹介した人が早く辞めてしまうと事業者側の評価にも響きます。先ほどの人材サービス総合サイトで、離職者数が公開されているのはそのためです。
ですから、合わない求人を無理に勧めることが事業者にとって得だとも限りません。構造は一方向ではないという点は、公平に書いておきたいと思います。
転職サイトのほうはどうか
比較のために、こちらの仕組みも見ておきます。一度立ち止まって、両方の成り立ちを並べてみてください。
掲載で収益を得る形が中心です
転職サイトは、企業が求人を掲載する時点で費用が発生する形が一般的です(採用課金型のサービスもあります)。
求職者は求人を検索し、自分で応募します。間に人が入らないぶん、やり取りは直接になります。
ここから生まれる違い
- 掲載されている求人は自分で全部見られる。エージェントのように「紹介されたものだけ」ではありません
- 応募のペースを自分で決められる。急かされることはありません
- 一方で、書類の書き方や面接の準備は自分でやることになります
- 非公開の求人には出会えません
それぞれ、どんな人に向いているか
ここまでを踏まえて、向き不向きを整理します。
エージェントが向いている場合
- どんな求人を見ればいいか分からない……経験の棚卸しから一緒にやってもらえます
- 在職中で時間が取れない……求人探しと日程調整を任せられる分、負担が減ります
- 書類や面接に自信がない……添削と練習が無料で受けられます
- その業界の相場が分からない……年収の水準を教えてもらえます
エージェントが向かない場合
- 行きたい企業がすでに決まっている……直接応募のほうが早く、企業側の負担も小さくなります
- 自分のペースで進めたい……連絡の頻度が負担になることがあります
- まだ転職するか決めていない……情報収集だけのつもりでも、選考が進んでいくことがあります
- 求人の少ない専門領域を狙っている……扱いのある事業者が限られる場合があります
3つ目については、面談の冒頭で「まだ検討段階です」と伝えておくと、進め方を合わせてもらいやすくなります。あなたの場合は、どれに近いでしょうか。
どちらとも言えない場合
ここに当てはまる方も多いと思います。その場合は、次の使い分けを試してみてください。
併用するときの使い分け
実際には、両方を使う方が多数派です。役割を分けると混乱しません。
役割を分ける
- サイト……市場を見る。どんな求人があり、条件の相場がどのあたりかを把握する
- エージェント……絞る。自分の経験でどこが現実的かを相談し、非公開の求人も見せてもらう
進める順序としては、サイトで1〜2週間ほど眺めてからエージェントに登録すると、面談で話せることが増えます。
同じ企業に二重で応募しない
これは実務上の注意点です。
サイトから応募した企業に、エージェント経由でも応募してしまうと、企業側で重複が発生します。応募した企業名は自分で記録しておいてください。
エージェントを複数使う場合
2〜3社に登録する方もいらっしゃいます。比較できる利点はありますが、面談と連絡の量も倍になります。在職中の方には、負担が重く感じられるかもしれません。
在職中であれば、まず1社で進めて、合わないと感じたら追加するくらいの進め方が現実的かもしれません。
どのエージェントを選ぶか
使うと決めた場合、次は事業者選びです。数が多いので、軸を持たないと決まりません。
まず、総合型か特化型か
- 総合型……幅広い業界・職種を扱う。求人数が多く、選択肢を広く見たい段階に向きます
- 特化型……特定の業界や職種、あるいは年代・地域に絞っている。行きたい領域が決まっているなら、こちらのほうが話が早いことがあります
まだ方向が定まっていないなら総合型から、決まっているなら特化型から。そう考えると迷いにくくなります。
そのうえで、4つを確認する
- 得意な領域……あなたの職種の求人を実際に扱っているか。サイトの求人検索で件数を見れば分かります
- 対応している地域……勤務希望地の求人がどれだけあるか。首都圏に偏っている事業者もあります
- 面談の形式と時間帯……オンラインに対応しているか、平日夜や土日に面談できるか。在職中なら効いてきます
- 公開されている実績……先ほどの人材サービス総合サイトで、その職種の手数料率と離職者数を見ておく
4つ目まで確認する方はほとんどいませんが、登録前に数分で見られる情報です。一度立ち止まって、目を通してみてください。
大手と小規模、どちらがよいか
どちらが優れているとは言えません。求人数では大手が有利ですが、担当者ひとりが抱える人数も多くなりがちです。
小規模な事業者は求人の幅が狭い代わりに、丁寧に見てもらえることがあります。あなたの場合、求人の量と関わりの深さのどちらを取りたいでしょうか。
担当者との関係について
最後に、面談でよく聞かれることをまとめておきます。
担当は変えてもらえます
相性が合わない、提案される求人がずれている。そう感じたら、担当の変更を申し出て構いません。
言いにくいと感じる方が多いのですが、事業者側にとっても、合わない組み合わせのまま進むのは望ましくありません。
断ることも仕事のうちです
勧められた求人に興味が持てないときは、そのまま伝えてください。
理由を添えると、次の提案の精度が上がります。「勤務地が合わない」「その業務は前職でつらかった」など、一言で構いません。
すべてを任せきりにしない
エージェントは、あなたの状況を全部は知りません。伝えていない条件は、考慮されないままになります。
譲れない条件を先に整理しておくと、面談が効率的になります。整理の仕方は転職を考え始めたとき最初にやる3つの準備にまとめました。
まとめ:仕組みを知ってから、使う
ここまでの内容を、判断に使える形にまとめます。
エージェントは企業からの成功報酬で成り立っており、求職者は法律上、原則として費用を負担しません。その構造から、無料で手厚く支援を受けられる一方、応募や返答を促されることがあります。
「登録しないと損をする」という話ではありません。行きたい企業が決まっているなら、直接応募のほうが合っていることもあります。
使うと決めた場合は、総合型か特化型かを決めたうえで、得意領域・対応地域・面談の時間帯・公開されている実績の4つを確認する。ここまでが選び方の全体像になります。
そもそも使うかどうかについては、こんな分かれ方になるでしょうか。
- 何を見ればいいか分からない、時間がない → エージェントに相談してみる
- 行き先が決まっている、自分のペースで進めたい → サイトや直接応募から
- 迷っている → まずサイトで市場を眺めて、話したいことができてから登録する
そしてどの道を選ぶ場合でも、人材サービス総合サイトで事業者の実績を一度見ておくと、判断の土台が変わってくると思います。












