ファイナンシャルライターの宮内俊輔です。
預金にお金を置いておくだけでは、なかなか資産が増えにくい時代になりました。そこで「貯金の一部を運用に回したい」と考える人が増えています。
ただ、いざ始めようとすると「貯金のどれくらいを投資に回せばいいのか」で手が止まる人は少なくありません。
この記事では、運用に回す割合の決め方を、生活防衛資金の確保から新NISAの活用まで順を追って整理します。読み終える頃には、自分に合った割合を考える基準が持てるはずです。
貯金の全額を運用に回すのは危険という前提
お金を増やしたい気持ちは自然なものです。
しかし、その気持ちのまま貯金の大半を投資に回すのは、初心者ほど避けたい判断になります。
預金だけでは資産が増えにくい時代
普通預金や定期預金の金利は、長く低い水準が続いています。
100万円を1年預けても、増える利息はごくわずかにとどまるケースが一般的です。
物価が上がる局面では、預金だけで持っていると実質的な価値が目減りすることもあります。
たとえば物価が年2%上がる一方で、預金の利息がほとんどつかなければ、お金の額面は変わらなくても買える量は少しずつ減っていきます。
だからこそ、資産の一部を運用に回して増やそうと考える人が増えているわけです。
私自身も、証券会社で多くの家計を見てきた経験から、預金一辺倒のリスクは軽視できないと感じています。
だからといって全額を投資に回してはいけない
一方で、増やしたいからと持っているお金をすべて運用に回すのは危険です。
投資には、値動きによって元本を割り込む可能性が常にあります。
投資に回すのは、当面使う予定のない余裕資金に限るのが大原則です。この前提を外すと、値下がり局面で生活が揺らぎます。
急な出費や収入減が重なったとき、投資しかお金がない状態は精神的にも家計的にも苦しくなります。
相場が下がっている最中に生活費を作るために売却すれば、下がった価格で損失を確定させることになります。
私が現場で見てきた失敗の多くは、投資の腕前ではなく、この「回しすぎ」から始まっていました。
「割合」で考えることが最初の一歩
運用で大切なのは、金額の大きさより「全体のどれくらいを回すか」という割合の発想です。
同じ50万円でも、貯金が100万円の人と1,000万円の人では意味がまったく違います。
前者は資産の半分、後者は5%にすぎず、値下がりしたときの家計への打撃はまるで別物です。
金額だけを見て「50万円なら大丈夫」と判断すると、自分の家計に合わない割合を選んでしまいます。
自分の資産全体を見渡し、無理のない割合を決めることが、長く続けるための土台になります。
割合の発想を持つと、資産が増えても減っても、同じ考え方で判断を続けられます。
その割合を決めるために、まず確保しておきたいお金があります。
運用割合を決める前に「生活防衛資金」を確保する
運用割合の話に入る前に、必ず先に手当てすべきお金があります。
それが生活防衛資金です。
生活防衛資金とは何か
生活防衛資金とは、病気や失業など、いざというときの生活を支えるために現金で確保しておくお金です。
投資に回すお金とは、はっきり分けて考える必要があります。
この資金があるからこそ、投資した資産が一時的に下がっても、慌てて売らずに済みます。
生活防衛資金は、運用を続けるための守りの土台だと私は考えています。
目安は生活費の3か月〜1年分
生活防衛資金の目安は、一般的に生活費の3か月分から1年分とされることが多いです。
会社員で収入が安定している人は3〜6か月分、フリーランスや自営業で収入が変動しやすい人は半年〜1年分といった考え方が広く紹介されています。
たとえば毎月の生活費が25万円の会社員なら、75万〜150万円ほどが一つの目安になります。
これはあくまで一般的な目安であり、家族構成や働き方によって適切な金額は変わります。
扶養する家族がいる人や、持病があり医療費がかさみやすい人は、多めに確保しておくと安心です。
家計管理や生活設計の基礎知識は、金融広報中央委員会が運営する知るぽるとのような公的な情報源でも確認できます。
生活防衛資金と投資資金を分ける理由
生活防衛資金と投資資金を分けておく理由は、値下がり局面で判断を誤らないためです。
生活費まで投資に回していると、相場が下がったときに生活のために売らざるを得なくなります。
安いところで売ってしまえば、損失が確定します。
逆に、生活防衛資金という現金の余裕があれば、値下がりしても「回復を待つ」という選択肢を持てます。
この「待てる余裕」があるかどうかが、長期投資で成果を左右する大きな分かれ目になります。
まず生活防衛資金を現金で確保し、そのうえで残ったお金を運用に回すという順番を守ってください。
余裕資金のどれくらいを運用に回すか
生活防衛資金を確保できたら、次は残った余裕資金の使い方です。
ここで初めて「どれくらいの割合を運用に回すか」を考えます。
まず「使う予定のあるお金」を除く
余裕資金の中にも、数年以内に使う予定のあるお金が混ざっていることがあります。
結婚、住宅の頭金、車の購入、子どもの進学費用などです。
使う時期が決まっているお金は、値動きのある投資には向きません。
2年後に使う予定のお金を投資に回して、ちょうど使う時期に相場が下がっていれば、計画そのものが崩れます。
これらを差し引いたうえで、当面使う予定のないお金だけを運用の対象にするのが基本です。
一般には、少なくとも5年以上は使う予定のないお金を運用に回すと、値動きに振り回されにくくなると言われています。
割合に絶対の正解はないという事実
「貯金の何割を運用に回すのが正解か」という問いに、万人共通の答えはありません。
適切な割合は、年齢、収入、家族構成、リスクへの耐性によって変わるからです。
そのため、特定の割合を「必ずこうすべき」と断定することはできません。
大切なのは、自分が値下がりに耐えられる範囲で割合を決めることだと私は考えています。
「100−年齢」の法則という一般的な考え方
割合を考える際に、昔から紹介されてきた目安の一つに「100−年齢」の法則があります。
これは、資産のうち株式などのリスク資産に回す割合の目安を「100から自分の年齢を引いた数字(%)」とする一般的な考え方です。
たとえば30歳なら70%、50歳なら50%が目安という発想になります。
年齢を重ねるほどリスク資産の割合を下げるという考え方を、分かりやすく示した目安と言えます。
背景には、年齢が上がるほど値下がりから回復を待てる時間が短くなるという発想があります。
ただし、これはあくまで一つの一般論であり、そのまま当てはめれば良いというものではありません。
収入や資産の状況、リスクへの考え方は人によって違うため、割合を考えるときの出発点として捉えてください。
年齢・ライフステージ別の運用割合の考え方
運用に回す割合は、年齢やライフステージによって考え方が変わります。
ここでは、あくまで一般的な目安として、3つの時期に分けて整理します。
20〜30代:時間を味方にできる時期
20〜30代は、運用できる期間を長く取りやすい時期です。
長期で積み立てるほど、途中の値下がりを取り戻せる時間の余地が生まれやすくなります。
この世代は、余裕資金のうち比較的高めの割合をリスク資産に回すという考え方も選択肢になります。
毎月の積立額は小さくても、20年、30年という時間をかけることで積み上がりやすくなります。
ただし、収入が安定していない場合は、無理をせず生活防衛資金の確保を優先してください。
若いうちは転職や結婚などで支出が読みにくいため、守りを固めてから割合を上げるほうが安全です。
40〜50代:教育費・住宅費とのバランス
40〜50代は、教育費や住宅ローンなど、まとまった支出が重なりやすい時期です。
収入が増える一方で、使う予定のあるお金も多くなります。
そのため、運用に回す割合は、近い将来の支出を差し引いたうえで慎重に決める必要があります。
数年以内に教育費や住宅の頭金として使うお金まで投資に回すと、必要なときに取り崩せない事態になりかねません。
手元の資金を守ることと増やすことのバランスが、この世代では特に重要になります。
60代以降:取り崩しを見据える時期
60代以降は、資産を増やす段階から使う段階へと移っていく時期です。
これまで積み立てた資産を、生活費として少しずつ取り崩す局面が近づきます。
取り崩す時期に大きな値下がりが重なると、その後の生活設計に影響が出やすくなります。
一般には、値動きの大きい資産の割合を下げ、資産全体の変動を抑える考え方が紹介されています。
年齢やライフステージが進むほど、運用割合は「増やす」より「減らさない」視点で見直すことが大切になります。
新NISAを踏まえた運用割合の実践
運用に回す割合が見えてきたら、次は具体的な制度の活用です。
2024年から始まった新NISAは、運用を始めるうえで欠かせない仕組みになりました。
新NISAのつみたて投資枠を活用する
新NISAには、年間120万円まで使える「つみたて投資枠」と、年間240万円まで使える「成長投資枠」があります。
生涯で非課税にできる上限は1,800万円で、非課税で保有できる期間は無期限です。
初心者がまず活用を検討したいのは、長期・積立・分散に向くと国が絞り込んだ「つみたて投資枠」です。
制度の詳細や最新の数値は、金融庁のNISA特設サイトで必ず確認してください。制度は今後も改定される可能性があります。
少額・積立から割合を調整する
運用割合は、一度決めたら固定するものではありません。
新NISAのつみたて投資枠は、月々の積立金額を柔軟に設定・変更できます。
最初は少額から始め、家計に無理がないと確認できてから割合を上げていくのが堅実です。
たとえば月5,000円や1万円から始め、半年ほど続けて家計への負担を確かめる方法があります。
収入が増えたときや、生活防衛資金が十分に貯まったときに、積立額を見直すという進め方も有効です。
小さく始めて、生活への影響を見ながら調整するという進め方が、長く続ける秘訣になります。
迷ったら公的な情報源で確認する
投資信託などの商品性を理解したいときは、一次情報にあたる習慣をつけると安心です。
投資信託の仕組みや基礎知識は、投資信託協会のサイトでも初心者向けに解説されています。
制度や商品は変わり続けます。数値や条件は必ず公的な一次情報で裏取りする姿勢を持ってください。
ネット上の情報には、古い制度を前提にしたものや、特定の商品へ誘導する目的のものも混ざっています。
公的機関が発信する情報を基準に置くことで、こうした偏りに振り回されにくくなります。
特定の割合や商品を勧めるのではなく、自分で理解して納得した範囲で判断することが何より大切です。
総括:運用割合は「生活防衛資金の確保」から逆算する
貯金のどれくらいを運用に回すかについて整理してきました。
順番は、まず生活防衛資金を現金で確保し、使う予定のあるお金を除き、残った余裕資金の中で無理のない割合を決めるという流れです。
年齢やライフステージによって適切な割合は変わり、万人共通の正解はありません。
大切なのは、他人の割合をそのまま真似るのではなく、自分の家計と将来設計に合わせて決めることです。
生活防衛資金を守り、余裕資金の範囲で、新NISAのつみたて投資枠を使って少額から始める。これが、初心者が大きく外さないための現実的な進め方だと私は考えています。
割合は一度決めて終わりではなく、収入や家族構成の変化に合わせて定期的に見直していくものです。
まずは自分の資産全体を書き出し、運用に回せる余裕資金がいくらあるのかを確認するところから始めてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の金融商品・保険商品の購入や投資を勧誘・保証するものではありません。制度・商品内容は変更される場合があります。NISA制度・税制・運用商品の最新情報は金融庁など公式情報をご確認のうえ、実際の投資判断はご自身の責任で行ってください。



















